小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

米国の小児COVID-19ガイダンス

 米国小児感染症学会(PIDS)から、小児のCOVID-19の予防と治療に関するコンセンサス・ステートメント(ガイダンス)が出ました。本文が長いので、4つの章がありますので、分けて紹介します。

 今回は第1章です。

第1章:COVID-19重症化リスクが高い患者を特定するためのリスクの層別化

第2章:外来で症状の悪化を防ぐための早期治療の推奨

第3章:入院で症状の悪化、重症化、死亡を防ぐための推奨

第4章:曝露前、曝露後のCOVID-19予防の推奨

Guidance for prevention and management of COVID-19 in children and adolescents: A consensus statement from the Pediatric Infectious Diseases Society Pediatric COVID-19 Therapies Taskforce.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Mar 19;13(3):159-185.
 本ガイダンスは、米国の21施設から小児感染症、小児感染症薬物療法、小児集中治療医学の専門家を集めたパネルいおいて作成した。重症COVID-19の危険因子に関するエビデンス、予防・治療的介入の安全性と有効性に関するエビデンスを評価し、成人で得られたエビデンスを小児に外挿するべきかどうか、またどのように外挿するべきかを評価した。これらのデータを専門家の意見と組み合わせて推奨を作成した。
 各項には、"recommend"(推奨する)、"suggest"(提案する)、"consider"(考慮する)の3段階の推奨が割り当てられている。
 

セクション1:リスクの層別化

提言1.1:

COVID-19に感染している小児において、適切な治療方針を決定するため、既往症、リスク因子、先行免疫の評価を考慮したリスク層別化を行うことを提案する。
 

提言1.2:

以下の条件をすべて満たす小児は、高リスク患者とみなされる:
 i.重症COVID-19の明確or可能性の高いリスク因子を有している。
 重度の免疫不全、肥満、糖尿病、未熟児、慢性心疾患、神経疾患(けいれん)、肺疾患(喘息を除く)は明確なリスク因子と考えられる。可能性の高いリスク因子は、鎌状赤血球症、軽度/中等度の免疫不全、神経疾患(トリソミー21)、慢性腎疾患、消化管・肝疾患などがある。
 ii.複数の(2つ以上の)併存疾患がある、重度またはコントロール不良の併存疾患がある、1歳未満または12歳以上で併存疾患ある、増悪する要素がある。
 iii.免疫正常宿主において、最新のワクチンを未接種または4ヶ月以内に感染していない。

提言1.3:

 重症COVID-19の明確な危険因子または可能性の高い危険因子を有するが悪化していない場合、あるいは免疫正常で事前免疫がある場合は、中程度のリスクと考える。
 

提言1.4:

重症COVID-19の危険因子を持たない小児は、重症COVID-19のリスクが低いと考えられる。

Risk stratification framework. Definite risk factors include immunocompromise, obesity, diabetes (type 1/2), prematurity, chronic cardiac, neurologic, or pulmonary disease (excluding asthma). Probable risk factors include sickle cell disease, mild/moderate immunocompromise, neuro-disabilities, chronic kidney, gastrointestinal or liver disease. Prior immunity is defined as up-to-date immunization or recent infection within the previous 4 months.

リスク層別化の枠組み
確実な危険因子:免疫不全、肥満、糖尿病(1/2型)、未熟児、慢性心疾患、神経疾患、肺疾患(喘息を除く)
可能性のある危険因子:鎌状赤血球症、軽度・中等度の免疫不全、神経障害、慢性腎臓病、消化器疾患、肝疾患など
事前免疫:最新の予防接種を受けたか、または過去4ヵ月以内に感染したものと定義
 

リスク層別化に関するエビデンスのまとめ

年齢

COVID-19の重症化リスクは、U字型の分布を示し、最もリスクが高いのは乳児期早期と思春期で、最もリスクが低いのは小学生である。未熟児が強い危険因子である(OR:2.77;95%CI:2.17-3.54)。
 

複雑な基礎疾患

先行するメタアナリシスでは、2つ以上の基礎疾患を有する小児では、重症化率が10倍まで上昇する。
 

事前免疫

最新の予防接種または最近の感染(過去4ヵ月以内)と定義される事前免疫は、重症化リスクを低下させる上で重要な役割を果たす。一価および二価のCOVID-19ワクチンは、オミクロン流行期に、小児を重症化から守るのに非常に有効(75%以上)であった。自然感染後にも同様の予防効果がある。しかし、事前免疫に関しては、考慮すべきいくつかの重要な注意点がある。第一に、過去の感染と予防接種の両方から生じる免疫は、時間の経過とともに弱まる。第二に、流行しているSARS-CoV-2の株がワクチンに含まれる株とどれだけ合致しているかを考慮することが重要である。第三に、免疫不全に関するものである。ワクチンと感染の両方に対する免疫学的反応は、免疫抑制の時期や程度によってさまざまに低下する。
 

免疫不全

SARS-CoV-2感染により、免疫不全の小児は予後不良のリスクが高い。最近の化学療法、好中球減少(ANC500/μL未満)、リンパ球減少(リンパ球絶対数200/μL未満)、骨髄破壊的前処置、移植片対宿主病、最近の造血細胞移植などは、重篤な免疫不全を引き起こす可能性があり、重症度の増加と関連している。軽度から中等度の免疫不全は、抗リウマチ薬(DMARDs)のような免疫抑制薬または免疫調節薬投与、またはPSL20mg/日未満と定義した。
 

血液疾患

鎌状赤血球症を有し、疼痛クリーゼ、急性胸部症候群、および関連する併存疾患の既往歴がある患者では、入院のリスクは増加するが、重篤な疾患のリスクは増加しない。
 

肥満と糖尿病

肥満は、重症化ORが2.26(95%CI:1.75-2.92)となり、明らかな危険因子である。糖尿病も、明らかな危険因子であった。糖尿病と肥満の両方を有する患者では、死亡の危険性が一般の小児の約4倍高い。
 

心臓および肺疾患

 重症COVID-19と、心疾患および喘息を除く肺疾患との関連については、一貫したエビデンスがある。重症化率は、心疾患では3倍、肺疾患では2倍高かった。肺高血圧症、気道の解剖学的異常、気管支肺異形成、睡眠時無呼吸、酸素/人工呼吸器依存状態は、重症化との関連が報告されている。一方、喘息は、重症化とは関連しない。心疾患と肺疾患の両方が併存する小児では、COVID-19で入院した後にICUでの治療が必要になる確率が20倍になる。
 

消化器疾患

COVID-19において慢性消化器疾患を有する小児患者が重症化するORは3.15(95%CI:2.22-4.46)。
 

慢性腎臓病

成人では慢性腎臓病(CKD)がCOVID-19重症度の予測因子としてよく報告されているが、小児ではあまり明らかではない。
 

神経発達症および精神疾患

注意欠陥多動性障害ADHD)、不安、うつ病などの精神疾患は、入院リスクの増加と関連しているが、必ずしも重症化するわけではない。けいれん性疾患などの神経疾患を有する小児は、リスクが高い。てんかんは入院(aRR:1.97;95%CI:1.62-2.39)および重症化(aRR:1.71;95%CI:1.41-2.08)の危険因子の一つであった。神経発達障害(例えば、ダウン症脳性麻痺メタボリックシンドローム)も、リスク上昇をもたらす可能性がある。
 

 1歳未満は、そんなリスクでは無いように見えますが。