小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Toxin陰性のC. difficileは治療対象?

 Clostridioides difficile感染症CDI)(いわゆる偽膜性腸炎)は、小児ではかなり少ない疾患です。毒素(toxin)産生株が CDIを引き起こします。しかし、toxin検査は感度が低く、toxin産生株がいても陽性にならないことも多いです。そのため、感度の高いGDH(抗原検査)やNAAT(核酸増幅検査)を行いますが、こちらの検査では、トキシン産生の有無が分かりません。(下図)
 
 
Toxin陽性
Toxin陰性
NAAT陽性
Toxin陰性株の保菌 or
Toxin偽陰性CDI
NAAT陰性
普通は
ありえない
CDIではない
保菌もしていない
 今回の研究は、NAAT陽性かつToxin陰性の症例に注目したものです。
要点
・NAAT+/Toxin+患者とNAAT+/Toxin-患者に死亡率の差はない
・NAAT+/Toxin-を治療した場合と無治療の場合を比較すると、
 治療したほうが死亡率が低い。
→NAAT+/Toxin-患者の中には、一定数「本物のCDI」患者がいるので、治療により利益を得られる可能性がある。
 下痢じゃない人に検査しても保菌を検出するだけなので、臨床症状からCDIの可能性が高い人に対してのみ、検査をすることが重要。
 
Clinical Outcomes and Management of NAAT-Positive/Toxin-Negative Clostridioides difficile Infection: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Clin Infect Dis. 2024 Feb 17;78(2):430-438.
 
背景
 核酸増幅検査(NAAT)はClostridioides difficile感染症CDI)の診断に頻繁に用いられているが、保菌状態とCDIの鑑別ができないことが問題となる。NAATと毒素免疫測定法(Toxin immunoassay)を組み合わせた2段階アルゴリズムにより、検査の特異性が改善する可能性がある。系統的レビューとメタ解析により、NAAT+/Toxin+とNAAT+/Toxin-、および治療例と未治療例のNAAT+/Toxin-症例の臨床転帰を評価した。
 
方法
 2023年4月1日までにEMBASEおよびMEDLINEを検索し、NAATおよびToxin検査による患者の転帰を比較した論文を検索した。NAAT+/Toxin+患者とNAAT+/Toxin-患者の間、およびNAAT+/Toxin-患者のうち治療例と未治療例の間で、ランダム効果メタ解析を行い、全死亡およびCDI再発のリスク差(RD)を算出した。
 
結果
 12,737人からなる26の観察研究が対象となった。30日後の死亡率は、NAAT+/Toxin+(8.4%)とNAAT+/Toxin-(6.7%)の間に有意差はなかった(RD = 0.41%、95%信頼区間[CI]= -.67, 1.49)。60日後の再発は、NAAT+/Toxin+(19.8%)では、NAAT+/Toxin-(11.0%)よりも有意に高かった(RD = 7.65%, 95% CI = 4.60, 10.71)。NAAT+/Toxin-の治療例と未治療例では、全死因による30日死亡率はそれぞれ5.0%と12.7%であった(RD = -7.45%、95%CI = -12.29, -2.60)。60日再発率に有意差はなかった(それぞれ11.6% vs 7.0%、RD = 5.25%、95%CI -1.71, 12.22)。
 
結論
 NAAT+/Toxin-患者に対する治療は、全死因死亡率の低下と関連していた。しかし、CDI再発とは関連していなかった。NAAT+/Toxin-患者の一部が治療により利益を得る可能性があることを示唆している。
 
Graphical Abstract