小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

カテーテル先端培養が陽性だった場合の菌血症リスク

 病棟で急な発熱の患者を見た時、「カテーテル関連血流感染症(CRBSI)かもしれない」と思って、血液培養とカテ先培養を提出することはよくあります。

 後日、血培は陰性なんだけど、カテ先だけ陽性という培養結果が判明した場合、対応を悩むことがあります。

 黄色ブドウ球菌に関しては、「カテーテル先端が陽性で、末梢血液培養が陰性である症例は5−7日間の抗菌薬投与を施行する」とIDSAのガイドラインで明記されています。

(Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of intravascular catheter-related infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America

 

 しかし、その他の菌に関しては、ガイドラインで明確な扱いはなく、抗菌薬をどの程度投与すれば良いか、悩ましいところです。

 

 抗菌薬を投与しないことによって起きる最大の問題は、「subsequent bacteremia」で、カテ抜去時には血液培養が陰性ですが、そのうち菌血症が起こってしまうことです。

 

 今回紹介するのは、カテーテル先端培養が陰性であった場合に、どのくらいsubsequent bacteremia (late CRBSI)を起こすかを検討した論文です。ガイドラインでも指摘している通り、黄色ブドウ球菌がカテ先から検出されたら、治療が望ましいと思いますが、真菌やGram陰性菌もそれなりの割合でlate CRBSIを起こすことが分かります。

 

要点

カテーテル先端培養が陽性の場合、late CRBSIの発症率は4.1%。

・リスクが高い菌は、MSSA (12.5%) > MRSA (9.9%) > 真菌(6.2%) > Gram陰性菌(4.3%)

・Late CRBSIのタイミングは約90%の症例で抜去から6日以内

The risk of catheter-related bloodstream infection after withdrawal of colonized catheters is low.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2014; 33: 729-34.
 
はじめに
 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)は、ほとんどがカテーテル抜去前または抜去時に発症している。抜去時には菌血症がないが、抜去後にCRBSIを発症(後期CRBSI)リスクは不明である。
 
方法
 カテーテル先端部の培養が陽性の患者集団において、後期CRBSIの発生リスクを評価し、関連する危険因子を分析した。2003年から2010年にカテーテル先端に細菌が定着した症例を後方視的に分析し、血液培養の結果と照合した。CRBSIは、早期CRBSI(カテーテル抜去後24時間以内に血液培養が陽性になった症例)と後期CRBSI(抜去後24時間以上経過してから血液培養が陽性になった症例)に分類した。後期CRBSIに関連する危険因子を分析した。
 
結果
 17,981本のカテーテル先端培養を解析した。4,533本(25.2%)で菌の定着を認めた。そのうち、1,063本(23.5%)が早期CRBSIの検体で、残りの3,470本のうち143本(4.1%)が後期CRBSIを発症した。後期CRBSIは、C-RBSI全体の11.9%を占めた。早期CRBSIと後期CRBSIを比較した結果,後期CRBSIは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA,p = 0.028)が多く,より死亡率が高い(p = 0.030)ことが明らかになった。
 
結論
 カテーテル先端培養が陽性になった場合、後期CRBSI発症リスクは4.1%であった。後期CRBSIの死亡率はより高い傾向があった。
 
 

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微生物
CRBSIを起こさなかった例
後期CRBSIを発症した例
後期CRBSIの発症リスク(%)
Gram陽性菌
4112
87
2.1
Staphylococcus epidermidis
2336
47
2.0
CoNS
684
0
0
233
23
9.9
MSSA
88
11
12.5
その他Gram陽性菌
771
6
0.8
Gram陰性菌
679
29
4.3
真菌
469
29
6.2
合計
5260
145
 
 
 
合計
後期CRBSI
早期CRBSI
p値
死亡者
70 (24.5%)
43 (30.1%)
27 (18.9%)
0.030