小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

標準予防策のみでESBL産生菌はどのくらい伝播するか?

 ESBL産生菌ネタの連投です。

 接触感染予防策を行わず、標準予防策 (staandard precaution)のみにした場合、どのくらい伝播しやすいかを検討した論文です。

 スイスの大学関連施設からの報告です。伝播率は約1.5%程度でした。著者らは、標準予防策において、手指衛生などの遵守がちゃんとできたら、接触感染予防策までは不要かもしれ無いとしています。

 一方で、フォローした期間が短く、同じ系統のクローンを新たに保菌するまでの日数が4.3日と比較的短いのが気になります。日本のように、在院日数が長い場合、伝播する可能性は日数に比例して増加するのではと考えられます。

 

Rate of Transmission of Extended-Spectrum Beta-LactamaseミProducing Enterobacteriaceae Without Contact Isolation
Clin Infect Dis . 2012 Dec;55(11):1505-11. 
 
背景
 ESBL(Extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌科細菌が世界的に増加している。接触感染予防策が推奨されているが、アウトブレイクが起きていない時期に接触感染予防策を実施しない場合の伝播率についてはほとんど知られていない。5つの集中治療室を有する三次医療機関において、ESBL産生腸内細菌科細菌の伝播率(R0)を推定することを目的とした。
 
方法
 1999年6月から2011年4月の期間に実施した観察コホート研究である。スイスのバーゼル大学病院において、ESBL産生性腸内細菌科細菌を保菌または感染した患者(インデック患者)と24時間以上同室の患者を対象に、直腸スワブ検体、開放創またはドレナージからのスワブ検体、尿道カテーテルを使用している患者の尿検体を検査し、ESBL保菌の有無を調べた。ESBLの表現型が確認された菌株は、PCRで確認した。院内感染は、接触者のESBL保菌スクリーニングの結果が陽性であり、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による分子タイピングでインデックス患者由来の菌株とのクローン関連性が明らかになった場合と定義した。
 
結果
 133人の接触患者に対してESBL保菌のスクリーニングを行った。PFGEにより確認された感染は、133名の接触患者のうち2名(1.5%)であり、インデックス患者との接触期間は平均4.3日であった。
 
結論
 ESBL産生腸内細菌科細菌(特にEscherichia coli)伝播率は、標準予防策が十分に行われている3次医療機関では低いと考えられた。アウトブレイクが起きていない状況下では、本菌の院内伝播の可能性は低い。そのため、コスト削減と患者ケアを向上の観点から、接触感染予防策を継続するのか検討が必要である。

 

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