小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

全患者に手袋・ガウンを装着しても薬剤耐性Gram陰性菌の獲得は減らない

 集中治療室(ICU)において、全患者に手袋・ガウンを装着すると、耐性GNRの獲得が減るかを検討した研究です。北米20施設での検討です。
 すでに、MRSAVREについては、同じ研究で2013年に結果が発表されており、MRSAの獲得に関しては、少し減るかもしれないという結果でした。
 今回は、この時のデータから二次解析をしたものです。残念ながら(?)耐性GNRの獲得は有意に減りませんでした。感染対策は、バンドルアプローチなので、いくつかの対策を同時に組み合わせて効果を得ることができるものなので、手袋とガウン装着という単独の対策だけでは、意味のある結果が得られなかったのかもしれません。
 
本研究の結論
 ICUの全患者に、ガウンと手袋を装着しても、(この対策単独では)耐性GNRの獲得を減らすことはできない。
Acquisition of Antibiotic-Resistant Gram-negative Bacteria in the Benefits of Universal Glove and Gown (BUGG) Cluster Randomized Trial
Clin Infect Dis . 2021 Feb 1;72(3):431-437.
 
背景
以前に実施されたBenefits of Universal Glove and Gown(BUGG)試験では、ICUにおいて全患者に対してガウンと手袋の装着を行った場合、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の伝播予防に対する効果は様々であり、有害事象の増加は認められなかった。本研究の目的は、この介入によって、薬剤耐性グラム陰性菌の獲得が減少するかどうかを評価することである。
 
方法
本研究は、20 の医療施設の集中治療室で実施されたランダム化試験の二次解析である。介入の内容は、医療従事者がすべての病室に入る際に手袋とガウンを着用することで、標準的なケアを行った場合と比較した。主要転帰は、監視培養で検出された薬剤耐性グラム陰性菌の保菌とした。
 
結果
20,246人の患者の入退院時の肛門周囲スワブ40,492検体が解析に含まれた。薬剤耐性グラム陰性菌の保菌という主要転記に対する介入群の効果(rate raio)は0.90(95%信頼区間[CI]、0.71-1.12;P=0.34)であった。各細菌の獲得に関する副次的転記に対する効果は次のとおりであった。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(RR 0.86[95%CI, 0.60-1.24;P=0.43])、カルバペネム耐性アシネトバクター(RR 0. 81[95%CI, 0.52-1.27;P=0.36]、カルバペネム耐性緑膿菌(RR, 0.88[95%CI, 0.55-1.42];P=0.62), ESBLs産生菌(RR, 0.94[95%CI, 0.71-1.24];P=0.67)であった。
 
結論
集中治療室で手袋とガウンを全患者に適応する感染対策は、薬剤耐性グラム陰性菌の保菌を統計学的に有意に減少させなかった。各医療機関は、施設における各菌の重要性、効果の大きさ、対策を行うためのコストに基づいて、介入を検討すべきである。