小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

クループは冷たい外気を吸い込むと症状が緩和される

 クループ症候群は、夜間の救急外来受診でよく見る病気です。突然、「犬が鳴くような」、「オットセイの鳴き声のような」咳が出て、受診します。(大抵、日付が変わるくらいの時間が多いです。)

 デキサメタゾンというステロイド投与とエピネフリン吸入で対応すれば、比較的早く良くなりますが、時々重症化します。

 今回は、クループ症候群に寒冷曝露が良いのではないかということで実施されたスイスからの報告です。

 

要点
デキサメタゾン内服後30分間の寒冷曝露は、クループ症候群の症状を緩和する。
・60分以降は変わらない。(デキサメタゾンが効いてくるため)
→デカドロン内服後、30分間、患者さんを屋外にいてください、というのはなかなか難しいのですが、受診までに時間がかかるときには、(冬なら)「車の窓を開けてきて」、とアドバイスするのも良いのでしょうか。

 

Outdoor Cold Air Versus Room Temperature Exposure for Croup Symptoms: A Randomized Controlled Trial.
Pediatrics. 2023 Sep 1;152(3):e2023061365.
目的
 クループ症候群は、小児の急性上気道閉塞の最も一般的な原因である。ステロイドによる治療効果は十分に確立されており、投与後30分で効果が発現する。今回、ステロイドの作用が発現するまで30分間、患者を屋外の冷気にさらすことで、軽度から中等度のクループ症状が改善するかどうかを検討した。
 
方法
 この非盲検単施設無作為化比較試験は、3次医療機関の小児病院の救急部に受診したクループ症候群でWestleyクループスコア(WCS)≧2の生後3ヵ月から10歳の小児を対象にした。参加者は、トリアージを受け、デキサメタゾン(0.6mg/kg)単回経口投与の直後に、屋外で冷気(10℃未満)に30分間曝露する群と屋内で待機する群に無作為に割り付けられた(1対1)。主要評価項目は、30分後のWCSが受診時点から2ポイント以上減少することとした。解析はintention to treatとした。
 
結果
 合計118人の参加者が、屋外の冷気に曝露する群(n = 59)と屋内で待機する群(n = 59)に無作為に割り付けられた。外気群では59人中29人(49.2%)が、室内群では59人中14人(23.7%)が、トリアージ後30分時点でベースラインからWCSが2ポイント以上低下した(リスク差25.4%[95%信頼区間7.0~43.9]、P = 0.007)。外気群の中等症患者は、30分時点で最も恩恵を受けた(リスク差46.1%[20.6-71.5]、P < 0.001)。
 
結論
 デキサメタゾン経口投与の補助として、屋外の冷気(<10℃)に30分間曝露されることは、クループ症候群の臨床症状の軽減に有益である。
 
Westleyスコアは以下です。本当は、真面目に点数をつけたほうが良いのでしょうが、大抵、当直の最も眠い時間なので、スコアをつけることはあまりやっていません…。

hokuto.app

 

 使用するデキサメタゾンの用量についても、色々と議論があります。0.15-0.5mg/kgと記載が多いのですが、すごく幅が広いです。個人的には、0.15mg/kgに近い量で使用しています。(というのは、当院では夜間に薬剤師が不在のため、使用できるデカドロンがエリキシル製剤しか無いんです。用量の調整がしやすい反面、内服の用量が多くなり、シロップ製剤を飲めない子は辛いです。また、アルコールが含まれており、酩酊する可能性もあります。)このスタディでは、0.6mg/kgのデカドロンが使用されており、すごく多い感じがします。

 クループ症候群は、夏にも見られるし、外気が10℃以下になる地域は、必ずしも日本では多くは無い気がします。その場合、冷気への曝露はなかなか難しいですね。スイスならではの研究かもしれません。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov