妊婦の感染症が臍帯を通じて胎児に感染することがあります。有名なのは、先天性風疹症候群で、先天性心疾患、白内障、小頭症などの重篤な先天性の障害が起きますし、流産・死産になることもあります。他にも、トキソプラズマ、その他others、風疹、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスの頭文字をとって、TORCH(松明)症候群と言っています。
しかし、私自身が先天性風疹症候群のお子さんを担当したことはなく、トキソプラズマ症もかなり稀です。一方、先天梅毒は、othersに含まれますが、国内での報告が急増しています。それは、先進国で共通するようで、先天性感染症の疫学が変化しており、時代にあった略語に変更するべきという意見があります。
イギリスから、「SCORTCH」という略称が提唱されていますので、ご紹介します。
Stop, think SCORTCH: rethinking the traditional 'TORCH' screen in an era of re-emerging syphilis.
Arch Dis Child. 2021 Feb;106(2):117-124.
背景
先天性感染症の疫学は常に変化しており、最近、英国では梅毒感染率が再上昇している。先天性感染症の診断はしばしば遅れることがある。先天性感染症の早期診断と管理は重要である。検査方法や項目が限られていることが多く、診断の機会を逃すことに繋がる。
方法
SCORTCH(梅毒syphilus、サイトメガロウイルス(CMV)、その他others、風疹rubella、トキソプラズマtoxoplasma、水痘VZV、単純ヘルペスウイルスHSV、血液媒介ウイルス)は、先天梅毒のリスク増加に対する臨床医の認識を高めるために作られた略語であるが、 ジカ熱、マラリア、シャーガス病、パルボウイルス、エンテロウイルス、HIV、B型肝炎、C型肝炎、HTLV-1に加え、「TORCHスクリーン」で認識されている典型的な先天性感染症(トキソプラズマ症、「その他」、風疹、CMV、HSV)まで考慮したものである。SCORTCHの診断について、先天性感染の乳児にみられる一般的な徴候、母体と児の血清学的検査、児の重要な直接診断について詳述した。直接診断検査には、X線検査、眼科検査、聴力検査、児と胎盤組織の微生物学的検査とPCR検査が含まれ、後者では病理組織検査も必要である。
結論
従来の「TORCHスクリーニング」は、血清学的検査に重点を置き、乳児の重要な直接診断検査をしばしば省略していたり、新興および再興の先天性感染症を考慮していなかった。梅毒が再興しつつある病原体であること、および様々な感染病因の臨床症状が重複していることを認識し、SCORTCH診断アプローチを用いてより広い視野を持つことを提唱する。