先天梅毒を診療する上で、こんなピットフォールがあるのか!と驚いた症例報告です。(原理的には理解できるのですが、母梅毒検査陰性という情報を知ってしまったら、先天梅毒を正確に診断する自信はあまりありません…。)
先天梅毒は、現在でもみかける感染症です。最近は、梅毒患者の増加とともに、増えています。通常、母の梅毒陽性が判明して、児が診断され、治療するわけですが、例外的な状況で、「母が梅毒検査陰性なのに、児が先天梅毒になる」ケースがあります。
今まで、あまり考えなかったケースですが、児の「先天梅毒かもしれない」と思ったら、仮に母の検査陰性でも、児の検査をしっかりやって、診断して、治療するのが大事です。
Congenital Syphilis and the Prozone Phenomenon: Case Report
Pediatr Infect Dis J . 2022 Jun 1;41(6):e268-e270.
先天梅毒は、公衆衛生における大きな問題である。ここ10年で米国では、先天梅毒が増加している。新生児では、症状が多彩で非特異的であり、しばしば診断は難しい。妊婦健診で、梅毒スクリーニングが偽陰性になることもある。
プロゾーン現象は、体内に抗体が大量に存在するために、通常のスクリーニング検査を阻害して、偽陰性になる現象である。そのため、診断の遅れや、後遺症・死亡に繋がる可能性もある。
プロゾーン現象 (prozone phenomenon): 抗体量が多すぎで、正常な抗原−抗体反応が起きなくなる現象。
本報告は、生後3ヶ月の先天梅毒の症例である。母は、妊婦健診を受診していたが、梅毒検査が陰性であり、本児の診断が遅れることになった。患者が先天梅毒の症状を呈しているのに、母のスクリーニングが陰性のときには、プロゾーン現象による偽陰性の可能性を考慮するべきである。