小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

未熟児にとってプロバイオティクスは善か悪か?

 腸内環境を整えることが、最近(?)話題です。ヨーグルトや乳酸菌飲料など色々なものにプロバイオティクスが含まれ、健康に良いと言われています。私も、下痢の子に、色々なプロバイオティクス製剤を処方しますが、その効果はすごくあるとは言いませんが、まあ、ちょっと良いかな…くらいに感じます。

 プロバイオティクスと似た言葉にプレバイオティクスとシンバイオティクスがあります。それぞれの用語の確認です。

・プロバイオティクス「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に有益に働く生きた微生物」と定義されています。つまり、腸内環境を良くすることによって私たちの健康に役立つ微生物がプロバイオティクスです。納豆やヨーグルトに入っている菌などが該当します。 

・プレバイオティクス「大腸の特定の細菌を増殖させることなどにより、宿主に有益に働く食品成分」と定義されています。プレバイオティクスは有用な腸内細菌の餌となる食品成分を摂取することによって腸内環境を改善するということです。

・シンバイオティクスシンバイオティクス(synbiotics)は、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものです。腸内フローラのバランスを整える生きた菌であるプロバイオティクスと、腸内の有用な菌の餌となるプレバイオティクスを同時に摂取することで、より効果的に腸内環境を改善し、健康増進に役立つと考えられています。

(ダノン健康栄養財団HPより)

www.danone-institute.or.jp

 

 早産児の重篤な合併症に壊死性腸炎NEC)という病気があります。プロバイオティクスの接種により、NECが予防できるかという研究が多く実施され、システマティックレビュー論文が出ました。

 

Probiotics, Prebiotics, Lactoferrin, and Combination Products for Prevention of Mortality and Morbidity in Preterm Infants: A Systematic Review and Network Meta-Analysis.
JAMA Pediatr. 2023 Oct 2:e233849.
 
はじめに
 プロバイオティクス、プレバイオティクス、またはその両方の投与により、腸内細菌叢が調節されることによりり、未熟児の死亡率を低下させたり、合併症を予防する可能性がある。
 
方法
 無作為化臨床試験のネットワークメタ解析(NMA)により、各種の予防戦略の有効性を比較検討することを目的とした。MEDLINE、EMBASE、Science Citation Index Expanded、CINAHL、Scopus、Cochrane CENTRAL、Google Scholarのデータを検索した。早産児の合併症発生または死亡の予防を目的としたプロバイオティクス、プレバイオティクス、ラクトフェリン、その配合剤を投与する試験を対象とした。主要アウトカムは、死亡率、重症壊死性腸炎NEC)、培養陽性の敗血症、経腸栄養成功率、完全経腸栄養に到達するまでの期間、入院期間とした。
 
結果
 25 840人の早産児が参加した合計106件の試験を対象とした。複数菌プロバイオティクスのみが、プラセボと比較して全死因死亡率を低下させた(リスク比[RR]、0.69;95%CI、0.56~0.86;リスク差[RD]、-1.7%;95%CI、-2.4~-0.8%)。複数菌プロバイオティクス単独(対プラセボ: RR、0.38;95%CI、0.30~0.50;RD、-3.7%;95%CI、-4.1%~-2.9%)、またはオリゴ糖との併用(対プラセボ: RR、0.13;95%CI、0.05~0.37;RD、-5.1%;95%CI、-5.6%~-3.7%)が、重症NECを減少させる最も効果的な介入の一つであった。単一菌プロバイオティクスとラクトフェリンの併用(対プラセボRR、0.33;95%CI、0.14~0.78;RD、-10.7%;95%CI、-13.7%~-3.5%)は、敗血症の減少に最も有効な介入であった。複数菌プロバイオティクス単独(RR、0.61;95%CI、0.46~0.80;RD、-10.0%;95%CI、-13.9%~-5.1%)、またはオリゴ糖との併用(RR、0.45;95%CI、0.29~0.67;RD、-14.1%;95%CI、-18. 3%から-8.5%)、および単一菌プロバイオティクス(RR、0.61;95%CI、0.51から0.72;RD、-10.0%;95%CI、-12.6%から-7.2%)は、経管栄養成功率がプラセボに対して最も有効であった。単一菌プロバイオティクス(MD、-1.94日;95%CI、-2.96~-0.92)および複数菌プロバイオティクス(MD、-2.03日;95%CI、-3.04~-1.02)は、プラセボと比較して完全経腸栄養に到達するまでの期間を短縮した。単一菌および複数菌のプロバイオティクスは、プラセボと比較して入院期間を短縮した(MD、-3.31日;95%CI、-5.05~-1.58;およびMD、-2.20日;95%CI、-4.08~-0.31)。
 
結論
 本研究において、複数菌プロバイオティクスと全死因死亡率の低下が関連することが、中等度〜高度の信頼性があると実証した。単一菌および複数菌のプロバイオティクスとプレバイオティクスまたはラクトフェリンとの組み合わせを含む製品は、NECおよび死亡率の低下と関連していた。
 
ごちゃごちゃと言葉で書くと分かりにくいので、表にするとこんな感じです。
とりあえず、プロバイオティクス(特に複数菌が混合されている製剤)が良さそう、プレバイオティクスが追加されてても良さそうな印象を持ちます。
 
死亡
敗血症
腸管栄養失敗
完全経腸栄養達成までの期間
入院期間
複数菌プロバイオティクス
減少
RR 0.69
減少
RR 0.38
 
減少
RR 0.61
短縮
−2.03日
短縮
−3.31日
複数菌プロバイオティクス+オリゴ糖
 
減少
RR 0.13
 
減少
0.45
 
 
単一菌プロバイオティクス+ラクトフェリン
 
 
減少
RR 0.33
 
 
 
単一菌プロバイオティクス
 
 
 
減少
RR 0.61
短縮
−1.94日
短縮
−2.20日

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 さて、問題はここからです。

実は、米国FDAが2023年9月29日に警告を出しました。

MCTオイルにEvivoというプロバイオティクスを一緒に投与された未熟児が、Bifidobacterium longumの菌血症を発症して、亡くなったというものです。

 

米国小児科学会は、「米国にはFDAの規制を受けた医薬品グレードの製品がないこと、安全性と有効性に関する相反するデータがあること、非常に脆弱な集団に害を及ぼす可能性があることを考慮すると、現時点で、早産児、特に出生体重1000g未満の乳児にプロバイオティクスをルーチンで普遍的に投与することを支持しない」と述べている

 

 未熟児医療全体で見ると、プロバイオティクスはプラスの面もありますが、時に重篤な菌血症を起こしうる製剤であることを認識する必要があります。

www.fda.gov