小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児のカンジダ血症、施設により追加する検査はまちまち

 カンジダ血症は、治療が大変な疾患の一つです。もともとの基礎疾患が重篤な患者さんに起きやすい(血液腫瘍、短腸症候群、先天性心疾患など)です。かつ、全身臓器にカンジダが播種して、眼内炎や肝膿瘍・脾膿瘍を形成したりします。また、使用できる抗真菌薬も限られており、長期にわたる治療が必要です。
 成人では、ほぼルーチンに眼科診察・腹部CT・心エコーなどを入れるかと思いますが、小児ではどうでしょうか?診療に協力が得られない小児の眼科診察は結構大変です。腹部CTは被曝の問題があり、エコーでは微小な膿瘍の確認は困難、MRIは状態の悪いお子さんに実施することは難しいのが実情です。
 また、最近の報告で、カンジダ眼内炎の発生頻度は低く、アメリカ眼科学会がルーチンでの眼内炎スクリーニングに反対しています。
 小児のカンジダ血症662例を対象に、合併症の精査目的の検査がどの程度実施されているのか(実施された検査で異常が判明する割合も)検討したものです。エビデンスと言うより、各施設で実施率が結構ばらつきがあり、一つの正解は無いですが、免疫不全状態では合併症の発生率も高く、検査の必要性は高まります。
要点
・腹部画像検査と眼科診察は、約7割の症例で実施。
・心エコーは約6割の症例で実施。
・免疫不全者では、腹部画像検査の実施率が高い。
 
Adjunctive Diagnostic Studies Completed Following Detection of Candidemia in Children: Secondary Analysis of Observed Practice From a Multicenter Cohort Study Conducted by the Pediatric Fungal Network.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Sep 27;12(9):487-495.
 
背景
 カンジダ血症患者において、補助的診断検査(aDS)は、潜伏性播種 (occult dissemination)の有無を確認するために推奨されている。しかし、小児科領域において、どのようにaDSを実施しているのかは明らかではなかった。
 
方法
 2014年‐2017年に侵襲性カンジダ症(主にカンジダ血症)を有する生後120日から17歳までのカンジダ血症を呈した参加者を対象に、前向きに多施設共同比較試験の二次解析を実施した。眼科検査(OE)、腹部画像検査(AbdImg:エコー、CT、MRI)、心エコー検査、脳神経画像検査、腰椎穿刺(LP)は臨床医の判断により実施した。カンジダ血症発症から30日以内に、エピソードごとにaDSの検査としての有効性を判定した。
 
結果
 662例の小児カンジダ性血症エピソードが対象となった。490例(74%)がAbdImgを、450例(68%)がOEを、426例(64%)が心エコーを、160例(24%)が神経画像を、76例(11%)がLPを実施された。カンジダ血症の期間が遷延することと、OE、AbdImg、心エコーの実施には関連性があった。免疫不全(全症例の58%)は、AbdImgの実施と関連していた(調整オッズ比[aOR]2.38;95%信頼区間[95%CI]1.51-3.74)。PICUでカンジダ血症を発症した場合(全症例の30%)は、心エコー検査と関連していた(aOR 2.42;95%CI 1.51-3.88)。OE陽性は15例(3%)、AbdImg陽性は30例(6%)、心エコー陽性は14例(3%)、神経画像陽性は9例(6%)、LP陽性は3例(4%)で報告された。
 
結論
 今回の研究では、カンジダ血症に対して、臨床で実施するaDSはバラバラであり、臨床医が臨床的要因に影響を受けてaDSを選択して実施している可能性がある。陽性となる頻度が低く、aDSを適応する患者を絞ることが正当化されると示唆される。
 
患者
 
眼科異常所見(%)
腹部画像検査異常所見(%)
心エコー異常所見(%)
脳神経画像検査異常所見(%)
髄液検査異常所見(%)
合計
 
15/450 (3%)
30/490 (6%)
14/426 (3%)
9/160 (6%)
3/76 (4%)
免疫不全
なし
2/185 (1%)
5/178 (3%)
4/168 (2%)
0/26 (0%)
0/16 (0%)
 
あり
13/265 (5%)
25/312 (8%)
10/258 (4%)
9/134 (7%)
3/60 (5%)
PICU入院
なし
9/313 (3%)
23/344 (7%)
11/289 (4%)
6/97 (6%)
2/55 (4%)
 
あり
6/137 (4%)
7/146 (5%)
3/137 (2%)
3/63 (5%)
1/21 (5%)
5日間以上カンジダ血症持続
なし
9/380 (2%)
22/409 (5%)
9/355 (3%)
7/117 (6%)
2/67 (3%)
 
あり
6/70 (9%)
8/81 (10%)
5/71 (7%)
2/43 (5%)
1/9 (11%)
 
本文中で気になった記載
・発症時に好中球減少がみられたエピソードでは、OEのタイミングが比較的早かった。米国感染症学会のガイドラインでは、眼内炎の検出を改善するために、好中球減少症からの回復後にOEを実施することが推奨されている。→急いで眼科検査よりも、骨髄回復後に検査したほうが、眼内炎の発見率が上がるかも。
・OE陽性の頻度が低く、免疫不全でない患者では1%であった。少なくともカンジダ血症の免疫正常小児はルーチンのOEを必要としないことを示唆している。