小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児のウイルス性筋炎(良性急性小児筋炎: BACM)のまとめ

 小児が、急に下肢の痛みを訴えたり、歩くのを嫌がった場合、ウイルス性筋炎≒良性急性小児筋炎(BACM)が鑑別に挙げられます。BACMは、自然軽快する疾患ですが、下肢痛の原因として見逃されることも多いです。典型的には、インフルエンザ罹患後に発症しますが、他のウイルスでも認められます。BACMについて論文を参考にまとめました。
 
要点
・左右対称性の下肢痛が急に見られる
・インフルエンザウイルスが多いが、他のウイルスでも起こす
・CPKの上昇が特徴的(中央値4100まで上昇する)
・自然軽快する
*コクサッキーウイルスでは、前胸部・背部・上腹部の筋肉痛が多く
 ヒトパレコウイルスでは、上腕と大腿の筋肉痛が多い
Viral myositis in children
Magee H, et al. Can Fam Physician. 2017;63:365
 
 
【疫学】
 BACMは、主に学童期に発症する疾患である。年齢の中央値は8.3歳(範囲7.3~10.3歳)、男女比は2:1、シックコンタクトは無いことが多く、同様の症状を呈した既往歴や家族歴もない。
 問診は、神経筋疾患の家族歴、最近の激しい運動や外傷歴、内服薬、筋痛や色素沈着のエピソード、既往歴(特に代謝性疾患、筋骨格系疾患、甲状腺疾患)が必要である。
 
【症状】
 ウイルス性疾患の一般的な症状改善から3日後(中央値)に、突然下肢の痛みを伴い歩くのを嫌がるようになる。ウイルス感染の症状として、鼻汁、微熱、咽頭痛、咳、倦怠感などがある。典型的には、左右対称の下肢痛が腓腹筋とヒラメ筋に限局してみられる。しかし、一部の症例は、大腿部前内側に圧痛を伴ったり、まれに上肢や体幹にも痛みや圧痛を伴うことがある。
 発熱は無く、バイタルサインは正常。疼痛部位は、軽度の浮腫が時々見られる。外観に以上はなく、圧痛があるが、通常は2~4日で疼痛は消失する。感覚・運動障害、深部腱反射の変化、足底反射に異常はない。
 
【原因となるウイルス】(UpToDateより引用)
・インフルエンザウイルス
・コクサッキーウイルス
・単純ヘルペスウイルス
・パラインフルエンザウイルス
・エコーウイルス
・麻疹ウイルス
・水痘・帯状疱疹ウイルス
HIV
・デングウイルス
・ヒトパレコウイルス
 
【検査】
 歩行が出来ない症例に限り、検査を行うべきである。95%の症例でCPKが上昇していた(中央値4100U/L)。ウイルス検査や筋生検、脊髄造影検査はルーチンで行うべきではない。
 画像検査は、他の診断を除外するためにのみ行う。適応は、外傷、骨髄炎、悪性腫瘍、深部静脈血栓症を否定できない症例である。MRIは確定診断に有用かもしれないが、明確な推奨はない。
 診断ガイドラインはないが、CPK値とウイルス検査でBACMの確定診断とすることが提案されている。急速に症状が悪化したり、症状が改善しない症例に対して、横紋筋融解や腎不全を除外するために、尿検査と腎機能検査が勧められる。定期的な血算、CRP、CPK値、肝機能検査、尿中ミオグロビン測定を推奨する専門家もいる。
 
【BACMと鑑別を要する疾患】
 BACM の痛みによる歩きにくさと、他の疾患に伴う筋力低下とを区別する必要があります。
外傷、非偶発的な損傷
皮膚筋炎
多発筋炎
横紋筋融解症
骨髄炎
頭蓋内病変
悪性腫瘍
若年性特発性関節炎
 
 
 
【管理】
 臨床的症状は、3日後(中央値)には回復する。カナダの大規模な前向き研究では、インフルエンザシーズンに、5−15歳の小児BACM症例26人中5人が入院した。Moonらは、全例が完全に回復したと報告しており、Agyemanらも患者5例の回復を報告している。H1N1が原因のBACM4例のケースシリーズで、平均4日で完全に回復したという報告もある。
 横紋筋融解症は、合併症としては非常に稀である。男子より女子の方が4倍多く発症する。全症例の86%がA型インフルエンザと関連していた。横紋筋融解症を発症した小児は、急性腎不全、電解質異常、コンパートメント症候群を見逃さないよう、入院して腎機能をモニタリングすることが望まれる。
 再発はまれだが、 311 例中 10 例で再発した報告もある。抗ウイルス剤は無効と考えられる。
 
 
 国内でも、1999年に愛知県でコクサッキーウイルスB群による流行性筋痛症、2008年に山形県、2016年に神奈川県でヒトパレコウイルス3型による流行性筋痛症が報告されている。筋肉痛の部位は、コクサッキーウイルスでは、前胸部・背部・上腹部ヒトパレコウイルスでは、四肢近位筋(上腕と大腿)に多く報告されている。