小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

整腸剤(プロバイオティクス)による菌血症

 


 お腹に良いはずの整腸剤が、菌血症を起こすことがあります。
 免疫不全や腸管の病気などがあると起きやすのですが、この報告はNICU内でプロバイオティクス由来の菌血症を集めた6例の報告です。
 後にも記載しましたが、これをもって、プロバイオティクスが危険というわけではなく、プロバイオティクスの菌でも菌血症を起こすくらい、免疫不全や腸管バリアが破綻している子どもたちがたくさんいるということです。
 宮城県立こども病院からの素晴らしい報告です。
 
Clinical and Bacteriologic Characteristics of Six Cases of Bifidobacterium breve Bacteremia Due to Probiotic Administration in the Neonatal Intensive Care Unit
Pediatr Infect Dis J. 2022 Jan 1;41(1):62-65.
doi: 10.1097/INF.0000000000003232.
 
背景
Bifidobacterium breveは、プロバイオティクスとして早産児や先天性外科疾患のある小児に使用されているが、近年、プロバイオティクスによる菌血症を発症した症例が報告されている。
 
目的
正期産および早産児を対象に、プロバイオティクス(BBG-01)によって引き起こされたBifidobacterium breve菌血症の臨床的および細菌学的特徴を検討する。
 
方法
2014年6月から2019年2月までの期間に、宮城県立こども病院の新生児集中治療室に入院し、プロバイオティクスとしてBBG-01を投与された患者298名を対象とした。6例がB. breve菌血症を発症し、その臨床的特徴を後方視的に評価した。
 
結果
B. breve菌血症の発症率は2%(6/298)であり、これまでの報告よりも高かった。発症日齢、修正週数、体重の中央値はそれぞれ8日(範囲:5~27日)、35週(範囲:26~39週)、1,940g(範囲:369~2734g)であった。菌血症の原因は、消化管穿孔が2例、食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)が2例、癒着性イレウスが1例、腸捻転が1例、食道閉鎖術後の誤嚥性肺炎が1例であった。血液培養でB. breveが検出されるまでの培養時間は、中央値で5日13時間後(範囲:4日18時間~9日13時間)であった。敗血症性ショックなどの重篤な症状を示した患者はいなかった。すべての患者に抗菌薬が投与され、後遺症を残すことなく回復した。
 
結論
イレウス腸炎などの腸管粘膜障害が、B. breve菌血症の原因となる。B. breve菌血症の発生率は、これまでの報告よりも高い可能性があり、一般的な細菌の場合より、血液培養が陽性となる時間が長い可能性がある。B. breve菌血症の予後は良好である。
 

 

 今回、血液培養から検出された菌はこれです。

www.yakulthealthcare.com

 
 報告をされた病院では、早産児、外科手術後の児に、ヤクルト社のB. breve BBG-01(製剤1gを4mlの水に溶解し、遠心した上澄み液を1日あたり1ml)を投与している。
 
 
1
2
3
4
5
6
週数
36
38
25
34
33
31
出生時体重
2249
2741
380
1413
2085
1490
発症日齢
8
11
5
27
7
8
疾患
癒着性イレウス
誤嚥性肺炎
食道閉鎖術後
壊死性腸炎
消化管穿孔
壊死性腸炎
消化管穿孔
FPIES
FPIES

f:id:PedsID:20211215090004p:plain

 考察でも指摘されていますが、腸管粘膜に障害がある患者さんばかりで、腸管内に定着した菌が、腸管粘膜の障害部位から血流に入ることが示唆されます。

 「菌血症を起こすから、危険だ!やめたほうがいい!」というのは極論で、プロバイオティクスによる良い面(敗血症やNECをへらすなど)も考察で述べられています。

  pubmed.ncbi.nlm.nih.gov