妊婦がCOVID-19だったら…。すでにこのような症例を経験している病院もあると思いますが、対応が困難です。陰圧手術室はない施設も多いですし、分娩室も陰圧にはなっていません。生まれた児を管理するNICUも陰圧構造がある病院は少ないと思います。
ましてや、母児同室なんて…無理と思っていましたが、感染対策に注意すれば、母児同室しても感染率は低いし、母乳も投与できる可能性があるよという論文です。
イタリアからの報告です。61名の新生児の内、感染したのは1名のみ。しかも、出産後、母親の状態が悪化した症例で、咳嗽などが強く、よりウイルスの排泄量が多かった可能性もあります。
これとは逆のパターンで、SARS-CoV-2陽性の小児患者に、PCR陰性の保護者が付き添いをすることに、当初は、かなり懸念を持っていました。しかし、ある程度しっかり感染対策をすれば、リスクはそれほど高くないし、何より保護者の付き添いは、子どもの精神衛生上、非常に大切だと思います。
今後は、日本でも本当に母児分離が必須なのか、母乳をあげることを諦めないと行けないのか、科学的根拠を積み上げて、議論が必要かと思いました。
Evaluation of Rooming-in Practice for Neonates Born to Mothers With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection in Italy
Ronchi A, et al. JAMA Pediatr. 2020 Dec 7.
本研究の重要性:SARS-CoV-2のパンデミックにおいて、母子感染予防は、新生児科医にとって大きな問題である。母親が、SARS-CoV-2に感染している場合には、、現在、推奨されている事項は、母児を分離するか、または適切な予防措置の下で母児同室を行うかである。しかし、母児同室中の SARS-CoV-2 感染リスクに関するデータはない。
方法:前向きの多施設共同研究である。2020年3月19日から 5月2日までの期間、生後 20 日間(範囲 18~22 日間)の追跡調査を行った。北イタリアのロンバルディア州にある6つの産院で実施された。参加者は、SARS-CoV-2陽性の母61人から生まれた新生児のうち、出生時に鼻咽頭スワブの結果が陰性で、母親の臨床状態に基づいて母児同室が実施された62人である。SARS-CoV-2陽性の母親は、新生児への感染リスクを最小限に抑えるため、標準化されたプロトコールの下で母児同室と授乳を行うように勧めた。
結果:61人の母から出生した62人の新生児(男児 25 人)のうち、出生後の検査で SARS-CoV-2陽性となったのは 1 人(1.6%;95%信頼区間 0%-8.7%)のみであった。この症例は、母の病状が悪化し、生後5日目に母児同室が中断された。新生児は生後7日目にPCR陽性となり、軽度の呼吸困難を発症した。本研究で登録された新生児の95%は母乳が与えられた。
母児同室の方法
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症例数(%)
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感染対策を実施の上、完全母児同室
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51(81)
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最初は不十分な感染対策で、母児同室
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4(7)
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生後24時間以内は母児分離
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5(8)
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最初は母児同室、後に母児分離
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2(4)
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<この研究で実施された感染対策>
・分娩室で、医療スタッフは、ガウン、二重手袋、目の保護具付きN95マスク、フェイスシールドまたはゴーグルのいずれかを着用した。
・母子同室が可能な場合、母親は感染対策を実施し、母乳育児を実践するように奨励された。
・母児同室はCOVID-19専用エリアで実施した
・母は、手洗い、授乳中・児のケアを行う際にサージカルマスクの着用を行う。その他の時間は、児からの距離を2m取るようにした。
・母は手袋、ガウン、ゴーグルを着用していない。
・母親と児への面会は、入院期間中は許可されなかった。
・母体または新生児の病状により、一時的に分離する必要がある場合は、新生児集中治療室(NICU)の専用の個室に入れられた。
・生後 7 日目に、児は 2 回目のPCR検査を受け、臨床状態が良好であれば退院した。
・退院前に母親は、自宅での育児を適切に行うために、ガイダンスを受けた
・新生児は、生後 20 日目(退院後 12~16 日目)に、外来フォローアップで診察を受け、同時に、児は PCR 検査を実施した。