小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新型コロナ感染と小児1型糖尿病(膵島抗体陽性)は関連している

 新型コロナウイルス感染は、その後、SLEなど色々な自己免疫疾患を発症するリスクを高くするという論文が増えています。感染後に、抗核抗体の陽性率が上昇するという論文もあります。
 
 今日紹介するのは、新型コロナ罹患後に、1型糖尿病発症の原因となる膵島抗体が陽性になる確率が高いという論文です。
要点
・新型コロナ罹患時、罹患後に、膵島抗体陽性率が上昇する。
・特に低年齢(生後18ヶ月以下)で陽性率が高い
SARS-CoV-2 Infection and Development of Islet Autoimmunity in Early Childhood.
JAMA. 2023 Sep 26;330(12):1151-1160.
 
はじめに
 COVID-19パンデミックの間、小児期の糖尿病罹患率が増加した。1型糖尿病を発症する前に膵島自己抗体が陽性化するが、SARS-CoV-2感染が自己抗体の陽性に関連しているかどうかを明らかにすることで、疾患の病因を明らかにし、将来の小児の糖尿病罹患者数の傾向を予測できる。
 
方法
 本研究の目的は、小児期のSARS-CoV-2感染と膵島自己免疫の陽性化に時間的関係があるかを明らかにすることである。2018年2月から2021年3月に、欧州の多施設共同研究であるPrimary Oral Insulin Trialに、遺伝学的に1型糖尿病の発症リスクが10%を超える生後4~7ヵ月の乳児1050例(女児517例)が登録された。2022年9月まで追跡調査を行った。2018年4月から2022年6月まで、2~6ヵ月間隔で追跡調査を実施した。SARS-CoV-2抗体が陽性化することでSARS-CoV-2感染を確認した。追跡調査で、2回以上膵島自己抗体が陽性となった、または膵島抗体が1回陽性となり1型糖尿病を発症した症例を特定した。SARS-CoV-2抗体陽性と膵島自己抗体陽性リスクを解析した。
 
結果
 生後6ヵ月からの研究に参加した885名(女児441名)の同意を得た。SARS-CoV-2抗体は、中央値18ヵ月齢(範囲6~25ヵ月)の170例で陽性になった。膵島自己抗体は60例で陽性となった。このうち、6例はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に陽性となり、6例はSARS-CoV-2抗体陽性となった後に膵島自己抗体が陽性になった。SARS-CoV-2抗体陽性となった時の膵島自己抗体発症の調整ハザード比は3.5(95%CI、1.6-7.7;P = 0.002)であった。膵島自己抗体の陽転化率は、SARS-CoV-2感染のない症例では100人年当たり3.5(95%CI、2.2-5.1)、感染した小児では100人年当たり7.8(95%CI、5.3-19.0)であった(P = 0.02)。低年齢(<18ヵ月)でSARS-CoV-2に罹患するほど、膵島自己抗体が陽性になるリスクは高かった。(HR、5.3;95%CI、1.5-18.3;P = 0.009)。
 
結論
 1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児において、SARS-CoV-2感染は膵島自己抗体の発現に関連していた。
 
Islet Autoantibodies and Their Temporal Relationship to SARS-CoV-2 Antibodies