小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新型コロナウイルス感染症の小児における感染性期間

 ちょっと、また記事を書く間隔が空いてしまいました。
 
 新型コロナウイルス感染症が、感染症法上の分類が5類になって以降、以下のような療養期間が社会的に受け入れられています。
  • 発症後5日間は特に他人に感染させるリスクが高いため、発症日(無症状の場合は検体採取日)を0日目として5日間経過し、かつ、熱が下がり、痰やのどの痛みなどの症状が軽快して24時間が経過するまでは、外出を控えることが推奨されます。
  • 10日間経過するまでは、ウイルス排出の可能性があるため、不織布マスクを着用する、高齢者等のハイリスク者と接触は控える等、周りの方へうつさないよう配慮をお願いします。

療養期間の画像

療養期間の考え方と濃厚接触者について - 新型コロナウイルス感染症情報 - 群馬県ホームページ(感染症・がん疾病対策課)

 

 小児病院で勤務していると、多くの患者さんは、マスクの着用が難しいですし、発症日から10日間は、定期外来などで来院することをご遠慮いただいています。しかし、小児において、いつまでコロナウイルスが排泄されるのか??は知りたいところです。

 ウイルスの排泄期間(とそれに伴う隔離・療養期間)を決め難いのはいくつか理由があります。
・患者の状態により、ウイルスの排泄期間が異なる(特に免疫不全者は延長する)
・ウイルス培養を見ないと、「生きたウイルス」かは分からない。(PCRはウイルスの破片が残っていても陽性になるので、PCR陽性は感染性があることと同じではない)
・全体の何%くらいのウイルス排泄がなくなれば、隔離解除してよいか?

 

 今回の研究は、基本的には健康な小児がCOVID-19に罹患した時に、「何日間くらい生きたウイルスを排泄するか?」を見た研究です。

要点

・診断から、感染性が残る期間の中央値は3日間。(発症日からではありません!)
・5日目で18.4%、10日目で3.9%の患者が感染性のあるウイルスを排泄していた。
・ワクチン接種歴の有無により、感染性のある期間は変わらず。

 
 Duration of SARS-CoV-2 Culturable Virus Shedding in Children.
JAMA Pediatr. 2023 Oct 23:e234511.
 
はじめに
 COVID-19による自己隔離は、一般的に日常的なウイルス性疾患の場合よりも厳しくなっている。小児におけるSARS-CoV-2の感染性期間(感染力がある期間)は不明である。ロサンゼルス郡の小児を対象に、検査陽性後10日間のウイルス培養を行い、感染期間とワクチン接種との関連を検討した。
 
方法
 このコホート研究では、COVID-19のPCR検査陽性の7~18歳の小児を2022年4月から9月の間に募集した。10日間に5回の家庭訪問を行い、咽頭ぬぐい液を採取した。主要評価項目は、顕微鏡検査により確認されたcytopathic effect (CPE)(ウイルスが細胞に感染したことを示唆する所見)とした。Kaplan-Meier曲線を用いて経時的な感染性を可視化した。
 
結果
 小児76人が参加した。52人(68.4%)がワクチン接種を受けており、41人(55.4%)が7~12歳、38人(50.0%)が男性、38人(50.0%)が女性であった。感染性期間の中央値は3日(95%CI、3-3)であり、5日目に14人(18.4%)、10日目に3人(3.9%)に感染性が残っていた。ワクチン接種と感染性期間に関連は無かった。
 
考察
 SARS-CoV-2オミクロン株に感染した小児において、診断からの感染性期間の中央値は3日間であった。ワクチン接種との関連はみられなかった。今回の結果から、検査陽性後5日間の隔離を義務付ける現行の方針は、適切であると示唆された。さらに、学校に復帰する時期の方針は、ワクチン接種の有無で区別する必要はないかもしれない。
 
 このグラフをみると、4−5日目までは順調に減ってゆき、10日目まで感染性が残るのは少数であることがわかります。日本の5日目までは自宅療養、10日目までは不織布マスクしていたらOKという基準は、とても妥当であると思います。