米国小児感染症学会と米国感染症学会から、小児の化膿性関節炎のガイドラインがでました。ダイジェストサマリーの日本語訳です(一部、意訳しています)。
今回のポイントは、治療期間を短期にすることを推奨したことです。治療反応が良ければ、10−14日間の治療(静注+経口の合計日数)となります。また、生後6−48ヶ月では、Kingellaをカバーするレジメン(通常はセフェム系抗菌薬)も推奨されます。そうなると、関節液の塗抹所見などにもよりますが、MRSAカバーのバンコマイシン+Kingellaカバーのセファゾリン or セフォタキシムあたりの併用が、初期抗菌薬としては良いのかと思われます。(個人的な見解です)
Clinical Practice Guideline by the Pediatric Infectious Diseases Society (PIDS) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA): 2023 Guideline on Diagnosis and Management of Acute Bacterial Arthritis in Pediatrics.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2024 Jan 29;13(1):1-59.
要旨
I. 急性化膿性関節炎(ABA)が疑われる小児に対して、どのような非侵襲的な診断的検査を実施すべきか?
・ABAが疑われる小児では、抗菌薬投与前に血液培養を実施することを推奨する(強い推奨、エビデンス確実性 中程度)。
・ABAが疑われる小児では、血清プロカルシトニンを測定しないことを推奨する(条件付き推奨、エビデンス確実性 低い)。
II. ABAが疑われる小児では、どのような画像検査を実施すべきか?
初診時に関節液貯留や骨髄炎の存在を検出するための単純X線撮影の感度は低いが、他の重要な病因が同定される可能性がある。
・ABAが疑われる小児で、特に股関節や肩関節の液体貯留の存在を検出する場合、罹患関節の超音波検査を実施することを推奨する(強い推奨、中程度の確実性のエビデンス)。
超音波検査で関節液貯留がないことを示されれば、ABAではないことが示唆される。
骨髄炎のリスクが高いABAは、受診より3~4日以上前に発症、S. aureus感染、CRPの著明上昇があるが、これらのリスク因子はさらなる検証が必要である。
III. ABAが疑われる小児に対して、侵襲的な診断的検査をいつ実施し、関節液を採取すべきか、また採取した関節液に対してどのような検査を実施すべきか?
・ABAが疑われる小児では、経験的抗菌薬療法を開始する前に、関節穿刺によって関節液を採取することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性は中程度)。
1)グラム染色・細菌培養で病原体が同定されなかった検体に対して、分子生物学的検査(特にK. kingae感染のリスクが高い小児)を実施する。2)免疫不全児または貫通創の既往歴のある小児は、好気培養以外に、微生物検査(例えば、嫌気培養、真菌培養、抗酸菌培養、メタゲノム次世代シーケンシングを含む分子生物学的検査)を実施する。
IV. 関節液が採取されるまで抗菌薬投与を待っても良いか?
・ABAが疑われる小児で、全身状態が悪い、急速に悪化している場合、(可能であれば血液培養採取後)直ちに経験的抗菌薬療法を開始することを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性は中程度)。
抗菌薬がすでに投与されている場合でも、侵襲的診断処置・検査は可能な限り早く行うべきである。
・ABAが疑われる小児で、状態が落ち着いていれば、関節液が採取されるまで、抗菌薬療法の開始を差し控えることを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性 非常に低い)。
侵襲的診断手技の前に抗菌薬投与を開始するかどうかは、重症度、専門家やリソースを利用しやすい地域性、高次医療機関に搬送するのに必要な時間によって決まる。分子診断技術の進歩により、抗菌薬投与前の細菌培養は、以前より重要度は低下している。
V. ABAが疑われる小児に対して、どのような抗菌薬を経験的に投与すべきか?
市中感染型MRSA(CA-MRSA)に対する活性を有する抗菌薬は、地域の感受性データと疾患の重症度に基づいて検討すべきである。予防接種、曝露歴、臨床症状、身体診察により、他の病原体が疑われる場合、黄色ブドウ球菌に加えて、他の病原体を標的とした経験的抗菌薬を追加することが正当化されるかもしれない。
・ABAが疑われる乳児および就学前の小児(生後6~48ヵ月)においては、黄色ブドウ球菌に加え、K. kingaeに対する活性を含む経験的治療を選択することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。
最近の研究で、この年齢層ではK. kingaeが最も頻度の高い病原体であると報告されている。黄色ブドウ球菌に対する経験的治療がK. kingaeに対して有効でない場合には、追加治療が推奨される。
VI. ABAの管理において、どのような場合に高度な画像診断を実施し、侵襲的手技を繰り返すべきか?
・最初の侵襲的処置(外科手術または関節鏡手術)および適切な抗菌薬療法の開始後、48~96時間以内に臨床的反応が不良またはL検査値が悪化(発熱持続、菌血症の持続、CRP上昇)が認められるABAでは、MRIを実施することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性は非常に低い)。
・初回侵襲的処置後48~96時間以内に、治療反応が不良(発熱の持続、菌血症の持続、CRP上昇)があり、感染巣のコントロール不良を示唆するABAでは、侵襲的処置を追加することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性は極めて低い)。
ABAが隣接骨髄炎を伴う場合、管理は骨髄炎ガイドラインに従うべきである。
VII. 外科的処置を必要とする ABA において、全身的抗菌薬療法に加えて、関節内抗菌薬をルーチンに使用すべきか?
・外科的処置が必要なABAでは、関節内抗菌薬のルーチン使用を推奨しない(強い推奨、エビデンスの確実性 非常に低い)。
VIII. ABAにおける副腎皮質ステロイドの役割は何か?
IX. 経験的治療に反応したABAにおいて、最終的な非経口療法および経口療法の薬剤選択はどのように行うべきか。
・ABAの抗菌薬レジメンは、同定された病原体に対して、スペクトルが最も狭く有効で、副作用が少なく、忍容性が最も良好なものを選択すべきである(Good Practice Statement)。
病原体が特定されていないABAでは、抗菌薬の選択は、最も可能性の高い原因菌に基づき、治療効果のあった経験的治療と同等の抗菌スペクトルを有し、副作用が最も少ない、忍容性が良好な薬剤を選択するという原則に基づく(Good Practice Statement)。
X. X. ABA、治療に対する反応を評価するために、どのような臨床検査を用いるべきか?
・外科的介入の有無に関わらずABAでは、経時的な臨床症状評価に加え、初回評価時にCRPを確認し、その後CRPを逐次フォローして治療に対する反応を評価することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性 低い)。
XI. ABAで、初回点滴療法に良好な反応を示し、看護師によるケアが不要となり、退院可能と判断された場合、a)経口療法またはb)外来点滴抗菌薬療法(OPAT)に移行すべきか?
・抗菌薬静注療法が奏効したABAに対し、適切で忍容性の高い経口抗菌薬の選択肢があり、確定または推定された病原体に対して有効である場合、OPATではなく経口抗菌薬に移行することを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性 低い)。
・最初の抗菌薬静注療法が奏効したが、経口抗菌薬療法が実行不可能なABAに対しては、治療全期間にわたって入院するのではなく、OPATに移行することを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性 極めて低い)。
この推奨を実施するかどうかは、OPATの種類(在宅、中間ケア施設、診療所)、地域の資源が利用できるかに影響される可能性がある。
XII. ABAに対して、抗菌薬による治療期間はどの程度が推奨されるか?
・骨髄炎を伴わないABAで、治療開始1週間後までに臨床症状が急速に改善し、CRPが一貫して低下している場合、一般的な病原体(S. aureus、S. pyogenes、S. pneumoniae、H. influenzae type b)であれば、21~28日の長期治療ではなく、10~14日の短期治療で抗菌薬治療(非経口+経口)を行うことを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性 低い)。
治療反応が不良、感染源のコントロールが不十分、CRP上昇が持続する場合、21~28日間の治療コースが望ましい。抗菌薬感受性が低い病原体や病原性が強い病原体(腸内細菌科や非発酵性グラム陰性桿菌、一部の黄色ブドウ球菌株(USA300株や、MSSAやMRSAにかかわらず同様の病原性を有する株など))による感染では、長期間の治療が必要となることが多い。骨髄炎を伴うABAは、骨髄炎ガイドラインに従って治療すべきである。
XIII. ABAの治療に対する反応と治療期間を評価するために、追跡の画像検査は必要か?
・ABAで、外科的介入の有無にかかわらず内科治療で改善が期待され、臨床的に経過良好の場合、ルーチンの追跡画像診断を行わないことを推奨する(条件付き推奨、エビデンスの確実性 非常に低い)
骨髄炎が臨床的に懸念される状況では、骨髄炎が初期に画像検査(例えばMRI)によって除外されなかった場合、抗菌薬中止直前に単純レントゲン撮影を考慮してもよい。
XIV. 治療が奏効しない、または治療終了後に再発した ABA に対 して、どのような介入が適切か?
・初期治療が奏効しない、あるいは再発したABAに対して、以下の介入を行う:
a. 抗菌薬レジメン(抗菌スペクトラム、投与量、感染部位での抗菌薬濃度、アドヒアランス)見直し、および関節デブリードメントとドレナージを評価した上で、抗菌薬の変更や再開の必要性を判断する(Good practice statement)。
b. 治療・診断目的の外科的介入の必要性を評価し、骨髄炎について追加診断評価の必要性を評価する(Good practice statement)。
XV. ABAは、感染による後遺症(例えば、関節拘縮、成長停止の可能性)に対処するために、どれくらいの期間経過観察が必要か?
治療に速やかに反応するABAの場合、治療開始から2~3週間を超える経過観察は通常は必要ない。骨髄炎を伴うABAは、2021年PIDS/IDSAガイドライン「小児における急性血行性骨髄炎の診断と管理」を参照のこと。