患者や家族の大病院信仰がありますが、基本的には、まずはかかりつけの先生に見ていただいて、必要なら大病院を紹介受診ということになります。
小児の救急外来でも、大病院に患者が集中します。「夜間でも色々検査してくれる」「日曜日でも専門の先生がいる」などのメリットがあることは、理解できますが、診断や予後に関して、本当に大病院受診が良いか、判断が難しいです。
この研究は、米国の救急外来の小児患者受診者数と、診断遅延(初診時に診断がつかなかった例)の関係をみたものです。
要点
・小児の救急外来受診者が多い病院ほど、診断遅延が少ない。
・診断遅延が少ないと、合併症も少ない傾向がある。
やはり、たくさん経験している施設ほど、初期に診断がつく(医師の経験によるのか、検査体制によるのか、良くわかりません)ことが多いようです。ちなみに当院は、救急外来受診者数は、相当少ないので、この研究では診断遅延が起きやすい病院かもしれません。(そうならないように努力はしていますが、夜間の検査制限など、個人の努力では変えられないところもある)
Emergency Department Volume and Delayed Diagnosis of Serious Pediatric Conditions.
JAMA Pediatr. 2024 Feb 12:e236672.
要旨
はじめに
小児の救急(ED)受診において、診断が遅れることはしばしばあり、転帰を悪化させる可能性がある。救急外来における小児の年間受診者数と診断の遅れとの関連を評価することを目的に、本研究を実施した。
方法
この研究は、後方視的に、米国8州の954か所の救急外来で治療を受けた18歳未満の小児を対象とした。急性かつ重篤な疾患(23疾患)の初回診断を受けた症例を抽出した。23疾患は、細菌性髄膜炎、コンパートメント症候群、複雑性肺炎、頭蓋内・脊髄膿瘍、深頸部感染症、異所性妊娠、脳炎、腸重積、川崎病、乳様突起炎、心筋炎、壊死性筋膜炎、 非外傷性頭蓋内出血、眼窩蜂巣炎、骨髄炎、卵巣捻転、肺塞栓症、肥厚性幽門狭窄症、化膿性関節炎、海綿静脈洞血栓症、大腿骨頭すべり症、脳卒中、精巣捻転である。Healthcare Cost and Utilization Project State ED and Inpatient Databasesのデータを用いて同定した。2015年1月~2019年12月分のデータを収集し、2023年7月~12月にデータを解析した。
救急外来を受診した小児の年間患者数を確定した。主要転機である診断遅延は、 「診断が付く前7日以内にEDを受診し、帰宅した患者」と定義した。
結果
対象となった小児58998人のうち、37211人(63.1%)が男児であった。平均年齢(SD)は7.1(5.8)歳であった。6709人(11.4%)が複雑な基礎疾患を有していた。診断の遅れは、9296例(15.8%;95%CI、15.5-16.1)にみられた。年間受診小児患者数が2倍増加するごとに、診断遅延は26.7%(95%CI、22.5-30.7)減少した。23疾患中21疾患(子宮外妊娠と洞静脈血栓症を除くすべて)において、ED受診小児患者数の増加に伴い診断遅延が減少した。疾患による合併症は、診断遅延がある患者では、無い患者に比べて11.2%(95%CI、3.1-20.0)多かった。
結論
小児患者の受診数が少ないEDでは、23の重篤な疾患において診断遅延の可能性がより高かった。小児受診者の少ないEDにおける診断を支援するツールが必要である。
参考までに、受診者数ですが、中央値は3813人(1日10人くらい)で、IQRが1495-8241人となっています。
The median (IQR) hospital volume was 3813 (1495-8241) encounters per year.
川崎病が診断遅延が25%を超えていますが、これは、発熱5日目くらいにならないと、本当に分からない症例も多いので、「診断が遅れた!」というのは、酷に思えます。
小規模施設で診断が遅れやすい疾患の上位は、肥厚性幽門狭窄、頭蓋内膿瘍、細菌性髄膜炎、深頸部膿瘍、心筋炎などです。
肥厚性幽門狭窄→エコーの高い技術と小児外科医が必要?
頭蓋内膿瘍・頸部膿瘍→MRIや造影CTが取りやすい施設が有利?
細菌性髄膜炎→施設の大きさによらず見逃してはいかんですが、小さい施設では小児の髄液検査の敷居が高いのか?
心筋炎→小児循環器科へのアクセスによる?
一方、尿の妊娠反応で診断できる異所性妊娠や見た目で分かる眼窩蜂窩織炎や乳突洞炎では、あまり施設の規模の差がないようです。