小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

マラリアもモノクローナル抗体で予防する時代

 熱帯熱マラリアは、非常に怖い感染症です。海外渡航が再び活発になり、日本の病院でも偶発的にマラリアの患者さんが来院するというケースも増えるかと思われます。

 マラリアに関しては、あまりワクチンの開発が難航しており、あまり効果が高くありません。旅行者のように、一定期間の渡航であれば、予防内服もできるのですが、マラリア流行地に居住している人にとって、予防内服はなかなか難しい対策です。

 

www.niid.go.jp

 

 今回紹介するのは、熱帯熱マラリアに対するモノクローナル抗体が、小児にも使用でき、予防効果が高かったという報告です。シーズン1回の注射で効果が持続するのであれば、予防内服より良い選択肢かなと感じます。

 モノクローナル抗体による感染症予防は、RSウイルスに対するシナジスがすでに用いられています。シナジスは価格が高いのですが、L9LSの価格はどうなるのでしょうか?

 

Subcutaneous Administration of a Monoclonal Antibody to Prevent Malaria.
N Engl J Med. 2024 May 2;390(17):1549-1559.
 
背景
 モノクローナル抗体L9LSの皮下投与は、成人の第1相臨床試験において、マラリア感染の予防効果があった。熱帯熱マラリアが流行している地域で、モノクローナル抗体を皮下投与することで、小児の熱帯熱マラリア感染を予防できるかについてエビデンスはなかった。
 
方法
 本研究はアフリカのマリで実施した第2相試験である。6~10歳の小児を対象に、6ヵ月間のマラリア流行期にL9LSを皮下投与して、安全性と有効性を評価した。研究前半で、成人に3種類の投与量で安全性が評価され、小児に2種類の投与量が評価された。研究後半では、小児をL9LS 150mg、L9LS 300mg、またはプラセボが投与される群に各々1:1:1の割合で無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、少なくとも2週間ごとに24週間実施された血液塗抹検査で検出された熱帯熱マラリア感染であった。副次的エンドポイントは、time-to-event解析で評価したマラリア発症エピソードとした。
 
結果
 研究前半で、安全性に関する懸念は確認されなかった。後半では、225人の小児が無作為化を受け、75人の小児が各群に割り付けられた。熱帯熱マラリア感染は、150mg群で36例(48%)、300mg群で30例(40%)、プラセボ群で61例(81%)にみられた。熱帯熱マラリア感染に対するL9LSの有効性は、プラセボと比較して、150mg群で66%(95%CI、45~79)、300mg群で70%(95%CI、50~82)であった(P<0.001)。臨床的マラリア発症に対する有効性は、150mg群で67%(95%CI、39~82)、300mg群で77%(調整後95%CI、55~89)であった(P<0.001)。
 
結論
 小児へのL9LSの皮下投与は、6ヵ月間にわたり熱帯熱マラリア感染および臨床的マラリアに対する予防効果を示した。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov