NEJMから、RSウイルス業界の常識を変える嬉しい論文が出ました!!
皆様の記憶にあるかと思いますが、RSウイルスが、2021年は大流行しました。しかも、夏に。本来は、冬に流行するのですが、現在はとても患者さんが少ない状態です。
このRSウイルスは、困ったウイルスです。乳幼児が感染すると、呼吸が悪くなりやすいです。無呼吸や脳症を起こすこともあり、かなり危険なウイルスです。そのため、小さく生まれたお子さん、心疾患を有するお子さんなどは、パリビズマブ(商品名シナジス)というモノクローナル抗体を注射し、RSウイルス感染を予防します。
また、RSウイルスに一旦感染すると、効果的な治療はすごく限られます。酸素投与と鼻汁吸引くらいで、ステロイドやベータ刺激薬吸入も十分な効果がありません。
現代医学でも、RSウイルスに罹った場合、残念ですが、自分の免疫力でウイルスを排除するまでの時間を耐えるしかありません。
そんな中、救世主になるかもしれない薬剤が開発されたかもしれません。
要点
・EDP-938 は、RSVの複製を抑制する薬剤、しかも内服でOK
・わざとRSVに感染させた成人(18-55歳)に投与すると、ウイルス量の低下、症状の改善、鼻汁の減少が見られた
・2021年10月から、小児に関しては治験を行っている(2022年12月までの予定)
・最適な投与量はまだ決まっていない
A Study to Evaluate EDP 938 Regimens in Children With RSV - Full Text View - ClinicalTrials.gov
EDP-938, a Respiratory Syncytial Virus Inhibitor, in a Human Virus Challenge
N Engl J Med . 2022 Feb 17;386(7):655-666.
背景
Respiratory syncytial virus (RSV)感染症は、乳児・高齢者、免疫不全者にとって、後遺症を残したり死亡の原因となる。RSVに対する非融合複製阻害剤であるEDP-938は、ウイルスの核タンパク質を調節することで作用する。
方法
本研究は、2部で構成される。第2a相の無作為化二重盲検試験において、RSV-A Memphis 37bという株のウイルスをを接種した参加者(18−55歳)に対して、EDP-938またはプラセボを投与した。用量を変えてEDP-938の効果を評価した。2日目から12日目まで、鼻汁検体を採取して評価を行った。臨床症状は参加者が評価し、薬物動態プロファイルを得た。主要評価項目は,RT-PCR法により測定されたRSVウイルス量のAUCであった。副次的評価項目は,症状の合計スコアのAUCであった。
結果
試験の前半(パート1)では、115名の被験者は、EDP-938(600mg1日1回投与、初回500mg投与後に300mgを1日2回)またはプラセボを投与された。後半(パート2)では、63名の被験者は、EDP-938(初回600mg投与後に300mgを1日1回投与、初回400mg投与後に200mgを1日2回投与)またはプラセボを投与された。パート1では、平均ウイルス量(時間×log10 copies per milliliter)のAUCは、600mg 1日1回投与で204.0、300mg 1日2回投与で217.7、プラセボで790.2であった。また、総症状スコア(時間×スコア、数値が大きいほど重症)の平均値は、600mg1日1回投与で124.5、300mg1日2回投与で181.8、プラセボ投与で478.8であった。第2部の結果は第1部と同様のパターンで、平均ウイルス量のAUCは300mg1日1回投与群で173.9、200mg1日2回投与群で196.2、プラセボ投与群で879.0、平均総症状スコアのAUCはそれぞれ99.3、89.6、432.2であった。EDP-938が投与された群ではプラセボ群に比べて粘液産生量が70%以上低下した。EDP-938の4つのレジメンの安全性は、プラセボと同様であった。すべての投与レジメンにおいて、EDP-938の最大濃度到達時間の中央値は4−5時間、半減期は13.7−14.5時間であった。
結論
EDP-938投与は,安全性に関する明らかな懸念はなく、ウイルス量・総症状スコア・粘液重量の低下に関して、プラセボよりも優れていた.(ClinicalTrials.gov番号 NCT03691623. )
RSVの予防は、高価なモノクローナル抗体のみ。感染したら、対症療法のみという状態を変える可能性のある薬剤です。今後、小児の研究結果についても注目です。