術後縦隔炎は、まれな合併症ですが、起きてしまうと非常に重篤になり、再手術、入院期間の延長などの大きな問題になります。小児において、まとまった研究が無いのですが、複数の論文から下記のリスク因子が明らかになってきました。
・低年齢(1歳未満)
・低栄養
・術前に上気道炎
・ASAスコア高値
・長い手術時間(ポンプ時間105分以上)
・長期人工呼吸・ICU滞在
それでは、論文の紹介です。
Mediastinitis Following Pediatric Cardiac Surgery
J Card Surg. 2014; 29: 74
背景:小児の心臓血管外科術後の縦隔炎は、死亡率が高く、後遺症を残すことも多い。
方法:この研究では、1986年から2011年に報告されてた21研究(12の後方視的研究、8の前方視的研究、1の多施設研究)に含まれた44,693例の小児心臓病症例を分析した。
結果と結論:低年齢、低栄養、術前の気道感染症、米国麻酔科学会(ASA)スコアが高値、長い手術時間、長期間の人工呼吸器管理、長期のICU滞在が、縦隔炎のリスク因子であった。縦隔炎の治療は、ドレナージを行いながらの早期閉鎖、VAC療法、筋肉皮弁、大網充填術などが、よく用いられている。特にVAC療法が最近増加している。
追加
・ここで紹介されているCostelloらの報告では、年齢1歳未満、ポンプ時間が105分以上が、あらゆるSSIの独立した危険因子であった。
・大動脈クランプの時間が85分以上、術後に赤血球輸血を3回以上受けることも、臓器体腔SSIのリスク因子であった。
・起炎菌は、ブドウ球菌が最も多く、緑膿菌、Enterobacter cloacae、Enterococcus faecalis、Candida albicans、Mycoplasma hominisなどの報告もある。
・それぞれの外科的治療方針も紹介されています
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早期の一次閉鎖
Ohyeらは、縦隔ドレーン1本を用いた早期の一次閉鎖術について述べている(通常は1~2日で抜去)。この方法は患者にとってより負担が少なく、高い治療成功率を達成している。しかし、42例中3例ではこの方法が失敗し、再手術を必要とした。しかし、42例の患者のうち3例がこの方法に失敗し、敗血症が続いたために再手術を必要とした。6週間の抗生物質の静脈内投与が必要となる点が欠点となる。
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灌漑+外科的デブリードメント
Bryantらは、再開胸し灌漑チューブ留置をおこない、胸骨の一次閉鎖をする治療法を報告している。ネオマイシン、バシトラシン、ポリミキシンB、カナマイシン硫酸塩、セファロチン、Dakin溶液などの薄い濃度の抗菌薬を、廃液の培養が陰性で創傷感染が改善するまで、縦隔に灌流する。
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陰圧創傷治療
ArgentaとMorykwasによって最初に導入され、感染後のさまざまなタイプの開放創を管理するために広く使用され、効果的な方法となっている。しかし、小児の胸骨正中切開後の縦隔炎の管理にVAC療法を使用することの妥当性は、報告が非常に少ないため、明らかになっていない。
陰圧の適用にはいくつかの利点がある:(1)陰圧は創部の排液を促進し、持続吸引により分泌物等を除去し、深部に体液が貯留するのを防ぐ、(2)縦隔腔が正常組織で満たされるように縦隔腔を縮小する、(3)胸部を安定させる、(4)湿潤環境を維持することで肉芽組織の形成を促す。さらに、患者は早期離床でき、リハビリを行い、合併症を最小限に抑えることができる。
4と5 筋肉皮弁と大網充填は当院ではあまりやらないので省略