現在、コロナ後の抗菌薬の使用状況をまとめています。外科系領域でピペラシリン・タゾバクタム(タゾピペ、ゾシン)の使用量がかなり増えていることが分かり、対応を考えています。
ちょうどそんな中、抗菌薬適正使用推進プログラム(ASP)により、小児の虫垂炎でタゾピペの使用量を96%減らしたという報告がスペインからありました。
Effects of a Paediatric Antimicrobial Stewardship Program on Antimicrobial Use and Quality of Prescriptions in Patients with Appendix-Related Intraabdominal Infections.
(小児虫垂炎関連の腹腔内感染に関する抗菌薬使用と処方の質に対する抗菌薬適正使用プログラムの影響)
Antibiotics (Basel). 2020 Dec 23;10(1):5.
背景
小児における抗菌薬適正使用プログラム(ASP)は、抗菌薬使用量(AU)を減らし、処方の質を向上させることが実証されています。しかし、外科領域でのASP導入については十分なデータがなく、標準化された効果指標が議論されています。本研究では、ヨーロッパの大学病院で虫垂炎関連の腹腔内感染症(AR-IAI)を有する小児患者を対象に、ASP導入前後のAUや入院期間(LOS)、処方の質(QP)への影響を評価しました。
方法
本研究は、2014-2016年のASP導入前と2017-2019年の導入後を比較した前後比較研究です。対象は、虫垂炎関連の腹腔内感染症のために入院し、少なくとも1回の抗菌薬投与を受けた患者で、システムによりAU、LOS、そしてQPが追跡されました。ASPは主に処方後レビューとフィードバックに基づき、処方の最適化が行われました。
結果
全体のAUおよびLOSには有意な変化は見られませんでしたが、急性の膿瘍形成した虫垂炎においてはLOSと治療期間(LOT)が大幅に短縮されました。ピペラシリン・タゾバクタムの使用は96%減少しましたが、他の広域抗菌薬への代替使用の増加は見られませんでした。処方の質は、わずかに向上し(p=0.052)、再入院率や死亡率には影響がありませんでした。
考察
本研究により、小児外科領域のASPの効果が確認されました。ピペラシリン・タゾバクタムの使用減少は、広域抗菌薬使用抑制の一助になる可能性が示唆され、再発感染や死亡率への影響も見られませんでした。外科医との協力や継続的なASP活動の重要性が明らかになり、病院全体でのAU改善にはデジタル支援と多部門間の連携が不可欠であることが再確認されました。
この研究では、比較的軽症例では、セフォキシチン(セフメタゾールと同じ系統)を使用し、膿瘍形成例などの重症例では、セフトリアキソン+メトロニダゾールを第1選択としているようです。
個人的な経験ですが、アンピシリン・スルバクタムで治療すると、治療失敗が多い印象があり、セフメタゾールかセフトリアキソン+メトロニダゾールを使用するレジメンを積極的に取り入れたいと思います。