小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

MRワクチン後の血小板減少性紫斑病(ITP)について

 ワクチンによる免疫反応がきっかけで、血小板減少性紫斑病(ITP)を発症することがあります。風疹ワクチンが有名ですが、他のワクチンでも起きます。

 ワクチン関連のITPを経験した時、もう一度同じワクチンを打っても良いのでしょうか?疑問に思ったので、調べてみました。

 

Thrombocytopenic purpura after measles-mumps-rubella vaccination: a systematic review of the literature and guidance for management.
(麻疹・ムンプス・風疹ワクチン接種後の血小板減少性紫斑病:システマティックレビューと管理の方針)
J Pediatr. 2010 Apr;156(4):623-8. 

背景

麻疹・ムンプス・風疹(MMR)ワクチン接種後の血小板減少性紫斑病(ITP)は、稀に報告される副反応です。本研究では、MMRワクチン接種後のITP発生率、臨床経過と予後、再接種リスクについて系統的レビューを行い、これらのデータに基づいて管理指針を検討しました。

 

方法

Ovid MEDLINEデータベースを用いて1950年から2009年6月までの関連文献を検索し、MMR接種後のITP症例を報告する研究を選定しました。ITPの定義は、血小板数15万/μL未満および臨床的な出血症状の存在としました。研究では、ITPの発生率、6か月以内の病状の解消率、MMR再接種後の再発リスクについて分析しました。

 

結果

12件の研究が評価対象となりました。

1.発生率

MMR接種後のITP発生率は0.087~4例/10万回接種(中央値2.6例/10万回)でした。

自然感染による麻疹や風疹に比べ、MMR接種後のITPリスクは数倍低いことが確認されました。

2. 臨床経過と予後

•6か月以内に93%の患者でITPが寛解しました。慢性化する割合は7%で、自然感染由来のITPよりも低いことが示されました。

重篤な出血症状は稀であり、大半の症例は軽症でした。

3. 再接種リスク

•ITP既往患者(ワクチン由来・非由来を含む)において、MMR再接種後6週間以内の再発例は報告されていませんでした。

 

考察

MMRワクチン接種後のITPは稀であり、大半が軽症で一過性です。また、ITP既往患者におけるMMR再接種は安全と考えられます。自然感染によるITPリスクが接種リスクを大きく上回るため、ITP既往患者でも適切な年齢でMMR接種を推奨すべきです。再接種の必要性は抗体検査による免疫評価を基に判断することが推奨されます。最終的に、MMRワクチンは自然感染のリスクを回避しつつ、重大な副反応の発生を最小限に抑える重要な公衆衛生介入であると結論づけられます。

 

Discussionの最後の部分です。基本的にこの考え方に同意です。

「ITPの既往歴のあるケースにMMRワクチンを接種するかは、初回接種後のウイルスに対する予防効果と血小板減少症再発のリスクとを比較した上で決定すべきである。(中略)MMRワクチン初回接種から6週間以内にITPを発症したケースには、抗体検査を行うべきです。抗体価が上昇している場合は、ワクチンの再接種の必要はありません。抗体価が陰性の場合、MMRの再接種を推奨します。」

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov