先日紹介した小児の急性虫垂炎の保存的治療に関する別の研究です。少し症例数は少ないのですが、合併症のない急性虫垂炎では、保存的治療のほうが、障害日数(日常生活ができない期間)も短く、医療費も少なく済みました。
Effectiveness of Patient Choice in Nonoperative vs Surgical Management of Pediatric Uncomplicated Acute Appendicitis
JAMA Surg . 2016 May 1;151(5):408-15.
はじめに
現在のエビデンスでは、合併症のない虫垂炎に対する保存的治療は安全であるが、有効性については、医学的転帰、患者・家族の視点・目標・期待を組み合わせることによって決定するほうが良い。本研究では、小児の合併症のない急性虫垂炎に対する保存的治療と手術的管理の有効性を明らかにすること。
方法
2012 年 10 月 1 日から 2013 年 3 月 6 日まで、オハイオ州の小児三次救急病院 (Nationwide Children's Hospital) を受診した 7−17 歳の合併症のない急性虫垂炎の患者を対象とした前向き患者選択コホート研究である。参加した患者・家族にインフォームドコンセントを行い、保存的治療と緊急虫垂切除術のいずれかを選択した。緊急虫垂切除術または保存的治療(抗菌薬の静脈内投与を行い、24時間以上入院観察し、症状の改善がみられれば経口抗菌薬に変更して、10日間の治療を完了する)。主要アウトカムは、1年間の保存的治療の成功率とした。保存的治療の成功は、「虫垂切除術を受けなかったこと」と定義した。副次的アウトカムとして、合併症を伴う虫垂炎の発生率、障害日数、医療費を比較した。
結果
65名の患者・家族が虫垂切除術を選択した。(年齢中央値12歳、IQR 9−13歳、男性45名[69.2%])、37名の患者・家族が保存的治療を選択した(年齢中央値11歳、IQR 10−14歳、男性24名[64.9%])。両群間で、患者背景は類似していた。保存的治療の成功率は、30 日後に 89.2%(95% CI,74.6%-97.0%)(37 例中 33 例)、1 年後に 75.7%(95% CI,58.9%-88.2%)(37 例中 28 例)であった。虫垂炎の合併症の発生率は、保存的治療群で 2.7%(37 例中 1 例)、手術群で 12.3%(65 例中 8 例)であった(P = 0.15)。1 年後、手術群と比較して、保存的治療で管理された症例は、障害日数が少なく(中央値 [IQR] 、8 [5-18] 対 21 [15-25] 日;P < 0.001) 、虫垂炎に関わる医療費が少なかった(中央値 [IQR] 、4219 [$2514-$7795] 対 5029 [$4596-$5482] ;P = 0.01)。
結論
保存的治療は、合併症のない急性虫垂炎の小児にとって効果的な治療戦略であり、手術よりも合併症の発症率が低く、費用も少なくて済むことが示された。
対象患者
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7-17歳
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合併症のない虫垂炎の定義
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発症48時間以内
WBC 18000/μL以下
虫垂の直径が1.1cm以下
穿孔していない
膿瘍・糞石が無い
(壁構造が保たれている)
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除外基準
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汎発性腹膜炎の所見がある
CRP 4.0mg/dL以上
妊娠反応陽性
慢性的に間欠的な腹痛がある
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治療レジメン
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・入院の上、24時間以上抗菌薬を投与する
・ピペラシリン・タゾバクタム
・ペニシリンアレルギーでは、シプロフロキサシン+メトロニダゾールを選択
・臨床症状が改善傾向かつ治療開始12時間以上経過してから経口摂取開始
・通常の食事ができたら、アモキシシリン・クラブラン酸(アレルギーではシプロフロキサシン+メトロニダゾール)内服に変更する
・合計治療日数は10日間
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