小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新生児の虫垂炎について

 虫垂炎(いわゆるアッペ)は、小児科ではよく見る病気ですが、発症年齢の分布が特徴的です。思春期や学童期に多く、年少児にはまれ、新生児では「極めてまれ」な病気です。

 その理由は、虫垂の形状が閉塞しにくく、炎症を起こしにくい。ミルクがメインの食事なので、食物残渣が詰まりにくいなど、色々あるようです。

 

新生児虫垂炎を起こしうる基礎疾患として重要なのは以下です。

・早産児

・鼠径ヘルニア(鼠径ヘルニア嚢内に虫垂がはまり込んだ虫垂炎はAmyand's herniaと呼ぶ)

ヒルシュスプルング病

・嚢胞線維症

・心疾患

・気管食道瘻

 

今回紹介する論文は、その超まれな新生児の虫垂炎の3例と、臨床的特徴と治療アルゴリズムの提案です。

 

Neonatal acute appendicitis: a proposed algorithm for timely diagnosis

J Pediatr Surg. 2011; 46: 2060-4.

 

概要

【背景】
新生児虫垂炎(NA)は死亡率の高い稀な疾患である。術前に診断された新生児虫垂炎の症例報告はなく、診断が難しいことでも知られている。
【方法】
1995年以降、生後28日未満の新生児で虫垂炎と診断されたカルテを後方視的に検討した。この期間に当院(アルバータ小児病院 カナダ)で受診したNAの3例を報告する。
【結果】
 3症例はいずれも基礎疾患はなく、満期産であった。敗血症に一致する徴候を呈した。最初の2例は死亡し、剖検で診断がついた。3例目は緊急CT検査、開腹手術を行い盲腸切除を行った。
【考察】
 NAの一般的な症状をまとめた文献をレビューする。新生児虫垂炎の早期診断と予後の改善を目的としたアルゴリズムを紹介する。
 
<症例のまとめ>
症例
日齢
9日
13日
15日
性別
女児
女児
出生週数
42週
40週
40週
ショック
発熱
腹部症状
嘔吐、閉塞
膨隆、腹膜炎
疼痛、圧痛、下痢
穿孔
死亡
死亡
生存
 
<文献レビュー>
・1978年以降、44例の新生児虫垂炎が報告されている。
死亡率:34.1%(15/44例)→free airあり、敗血症なしの症例は予後が良い
穿孔率:82.5%
・基礎疾患(早産、その他)あり 60%
  ヒルシュスプルング病(4例)、先天性心疾患(3例)、気管食道瘻(2例)、
  嚢胞線維症(1例)、サイトメガロウイルス感染症など
・臨床症状(図を参照)
 腹部膨隆、嘔吐、哺乳不良などが多い→非特異的な症状

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<診断アルゴリズム
 新生児においては、壊死性腸炎NEC)と虫垂炎の鑑別が重要になる。前者は、保存的に抗菌薬で加療することが一般的であるが、後者では早期の外科的治療が必要である。下記を組み合わせてアルゴリズムを提唱している。
 1. 単純レントゲンNECでは腸管気腫が認められることが多く、free air虫垂炎や腸管穿孔を示唆する)
 2. ドップラーエコー(腹水、腸管壁肥厚、腸管血流の評価を行う)
 3. 造影CT
 
 要約すると、
 レントゲン  腸管気腫→保存的にNECとして治療
        free air→試験開腹・腹腔鏡手術
        どちらもない→ドップラーエコー
 ドップラーエコー NECの所見がある→保存的加療
          NECの所見がない→試験開腹・腹腔鏡手術
          すぐにできない→造影CT
 造影CT NECの所見がある→保存的加療
      NECの所見がない→試験開腹・腹腔鏡手術

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