小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)と感染症

 長い名前ですが、新生児-乳児食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)という病気があります。FPIESは、乳幼児期に発症する食物アレルギーの1種です。典型的には、原因食物の摂取から1-4時間後に、大量に嘔吐して、顔面蒼白、ぐったり、血圧低下、下痢などを伴います。牛乳、大豆、米などが主な原因として知られています。
 アレルギーと言われると想像するアナフィラキシーや蕁麻疹などの即時型アレルギーと異なり、発症までにある程度時間がある遅発型アレルギーなので、診断が難しいことがあります。(そもそも何時間も前に食べたものが原因と思わないことも多い。)また、患者は一見すると、重症感染症を疑うような症状を呈しており、FPIESを疑わないと、診断ができないことがあります。
 
 私も後期研修医時代に、当直で初めて患者さんを診た時には、敗血症と思ってしまいました。抗菌薬を投与したり、輸液したりしましたが、具合が悪く絶飲食にしたので、FPIESは改善しました。お母さんの話を聞くと「今日、赤ちゃんを実家に預けて、初めて外出した。それまでは、母乳しか飲んだことがなかったけど、人工乳を初めて与えた。」というような事が分かりました。
 
 FPIESと急性胃腸炎・敗血症を区別するポイントは、もちろん「原因となる食材の摂取」ですが、それ以外に、初診時に臨床的な違いがあるかどうかを検討した研究です。
 
要点
・FPIESでは、ぐったり (lethargy)、筋緊張低下、顔面蒼白が多い
・敗血症では、発熱、頻脈、頻呼吸、下痢が多い
・胃腸炎では、発熱、下痢、血便が多い
・FPIESでは、CRP正常だが、WBC・リンパ球・血小板が増加する傾向
 
Differentiating Acute Food Protein–Induced Enterocolitis Syndrome From Its Mimics: A Comparison of Clinical Features and Routine Laboratory Biomarkers
 
J Allergy Clin Immunol Pract . 2019 Feb;7(2):471-478.e3.
 
背景:
 新生児-乳児食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)は誤診され、診断が遅れることがある。急性FPIESの特徴である多量の嘔吐は、胃腸炎や敗血症などより一般的な小児疾患で起こることがある。
 
目的:
 我々は、大量の嘔吐のため救急外来(ED)を受診した小児のFPIES、胃腸炎、敗血症の患者を対象に、これらの疾患の急性期症状の特徴を明らかにすることを目的とした。
 
方法:
 EDを受診してFPIESと診断された生後6ヵ月-4歳の小児を対象に後方視的な症例対照研究を行い、臨床的特徴、バイタルサイン、検査値を、嘔吐を伴い細菌性/ウイルス性胃腸炎または敗血症と診断された同年齢の小児と比較した。
 
結果:
 合計181例のFPIES、55例の胃腸炎、36例の敗血症の症例を比較した。FPIESの小児では、ぐったり (lethargy)、筋緊張低下、顔面蒼白を呈する可能性が高かった。敗血症の小児は発熱、頻脈、頻呼吸、下痢を呈する可能性が高いのに対し、胃腸炎の小児は発熱、下痢、血便を呈する可能性が高かった。CRP正常、白血球増多、リンパ球増多、血小板増多、MPV低値(Plt容積)、アルブミン/グロブリン比の上昇は、敗血症や胃腸炎よりもFPIESに多くみられた。他の臨床・検査マーカーでは、これら3つの疾患群を確実に区別できるものはなかった。
 
結論
 嘔吐している幼少児では、ぐったり、筋緊張低下、発熱を伴わない顔面蒼白、CRPが正常であればFPIESの可能性がある。一方、CRP上昇はFPIESの特徴ではなく、別の診断を検討する必要がある。
 

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