小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

感染症科医にとってCRPはthe elephant in the room?!

 CRPは、日本の臨床現場で頻用されているにも関わらず、感染症のスタンダードな教科書ではあまり触れられることはなく、触れても非常に軽い扱いをされてきました。(例:感度も特異度も高くない検査である。)

 確かに、医療現場で過度に用いられ、CRP値のみで感染症の治療方針を決定するのは、間違っていると思います。

 一方で、感染症科医もCRPの有用性やその限界について知っておく必要はあると思います。

「あんまり役に立たない検査だし、俺は見ない」
CRPを見て感染症診療をやっている奴は、いけてない」
CRPを見なくても感染症診療ができる」
という原理主義的な感染症診療ではなく、どのような使い方であれば役に立ち、どのようなケースでは注意するべきなのか、感染症を専門にしない先生との対話も重要だと思います。
(一方がCRPを重視し、もう一方が軽視していては、会話が成り立ちません)

 

 英語の慣用句で、the elephant in the room(部屋の中の象)は、大きな問題がそこにあるのに、誰もがそのことを口にできない状況を指します。CRPを the elephant in the ID業界にしない」ようにしたいと思っています。

 

CRPは細菌感染とウイルス感染を鑑別できるか?

 いきなり、永遠のテーマです!
 ウイルス感染ではCRPはあまり上がりませんが、アデノウイルスやインフルエンザAでは結構上がる例を経験します。また、細菌感染でも中耳炎などではあまり上がりません。

 古典的な研究やメタアナリシスがあり、アメリカ家庭医学会でも紹介されています。現場で、とりあえずの基準として認識したい数値は、「CRP4以上は重症細菌感染が多く、CRP2未満は重症細菌感染が少ない」ということです。

 

Rule in

LR+

事前確率

事後確率

PCT>2ng/ml

7.1

1%

6.7%

 

 

3%

18%

CRP>4.0mg/dL

7.4

1%

6.9%

 

 

3%

19%

 

Rule out

LR-

事前確率

事後確率

PCT<0.5ng/ml

0.66

1%

0.7%

 

 

3%

2.0%

CRP<2.0mg/dL

0.47

1%

0.5%

 

 

3%

1.4%

 

(Am Fam Physician. 2020 Jun 15;101(12):721-729. PMID: 32538597.)

 

CRPが高いと重症か?

 これも永遠のテーマ2です!「CRP10なので、元気ですが、入院させます」という状況は、小児科医なら、一度は経験したことがあると思います…。

 「CRP高値だけでも精査の対象になる。但し、CRPが低くても重症の人はいるので、その他の症状を合わせて精査の対象にする」ことが大事です。

 CRPの値による、小児重症感染症の診断精度

CRPのcutoff値

感度

特異度

>0.5mg/dL

90.8%

33.4%

>2.0mg/dL

73.1%

63.9%

>8.0mg/dL

35.0%

94.8%

>20.0mg/dL

9.6%

99.7%

 当然、cutoff値を高くすれば、特異度が上がりますが、感度が低下します。
CRP 20以上で、重症じゃない人はほぼ除外できるが、一方、重症の人を拾えない)

 このデータを元に、CRPのレベルを3つくらいに分けて行うマネジメントを提唱しています。これは、日本の臨床現場でも比較的受け入れやすいと感じます。

〜論文中でのマネジメント方法〜

CRP高い(7.5以上):すぐ精査

CRP中等度(2−7.5):条件次第で精査
    (解熱剤無効、6ヶ月未満、1日以内、嘔吐、不機嫌、経口摂取不良)

CRP低い(2未満):条件次第で精査
  (高熱、頻呼吸、末梢循環不全、呼吸障害、腹痛、頚部痛、紫斑、意識障害など)

(Arch Dis Child. 2018 May;103(5):420-426.)

 

CRP上昇速度

 例えば、発熱初日のCRP2mg/dLと、発熱5日目のCRP2mg/dLは、臨床医によって感じる印象が違うと思います。そこで、CRP上昇速度 CRPv」という概念を編み出して、細菌感染症の鑑別に使えないかを検討した報告があります。

 入院時にCRPが比較的低い成人症例を対象にした検討です。入院時のCRP(CRP1)と入院後24時間以内のCRP(CRP2)の差を出します(CRP2-CRP1)。計測時間(h)で割ったCRP上昇速度(CRPv)を検討しました。

 CRPv=(CRP2-CRP1)/(CRP1からCRP2を測定するまでの時間)

 CRP2とCRPvは細菌感染では有意に高く、区別するヒントになるかもしれません。

CRP上昇速度が早い場合には、細菌感染症の可能性が高い」

 

ウイルス感染

細菌感染

P値

CRP1 (mg/dL)

1.62±8.6

1.48±8.5

0.336

CRP2 (mg/dL)

3.02±2.19

7.56±5.13

<0.001

CRPv (mg/dL/h)

0.09±0.12

0.44±0.27

<0.001

 

(BMC Infect Dis. 2021 Dec 4;21(1):1210.)

 

 CRPは、完璧なバイオマーカーではありません(これは何度も強調します)。

 しかし、血液培養も、PCR検査も、すべての臨床検査で完璧はありえません。CRPが悪いのではなく、CRPしか見ない医者の頭が悪いのです。臨床現場で上手に使用して、細菌感染症で重症の患者さんを早く見つけて治療してあげれば、その手段が、CRPでも血液培養でもなんでもいいと思います。