小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

周産期・新生児期の水痘のまとめ(レビュー)

 とりあえず、「出産直前・直後(-5日~+2日)に母体が水痘を発症した場合」は、ものすごくヤバいことを知っておきましょう。
 ベルギーの先生が書かれたレビューなので、ヨーロッパの状況を主に反映していると思います。生後1ヶ月以上では、アシクロビル内服はあまり必要ないと書いていますが、乳児の水痘は入院率は高いので、個人的には、乳児期には、ワクチンも接種していないので、アシクロビルを積極的に使っています。
 
Management of varicella in neonates and infants
Blumental S, et al. BMJ Pediatr Open. 2019;3:e000433.
 
序章
 水痘は頻度の高い感染症であり、自然治癒する軽症例から、入院や抗ウイルスなどの静脈内治療を必要とする重度合併症を併発する症例まで、幅広い臨床症状を引き起こす。一方、VZVに免疫のある母親から生まれた児では、生後に家族からVZVに感染しても、重症にならない。
 しかし、低年齢では初期臨床症状の信頼性が低く、周産期に感染した場合には重篤な合併症のリスクが高く、治療のコンセンサスがないことから、水痘患者と接触後の乳幼児の管理には、混乱が残っている。日常診療では、水痘の重症度を考慮せず、低年齢だけを理由に入院を勧められる傾向もある 。したがって、水痘の自然経過や、播種性病変のリスク因子、治療の適応についての知識を深め、治療を必要とする患者を早期に治療し、他の不必要な入院や院内合併症を回避しなければならない。
 
疫学と臨床症状
 妊娠中の水痘は、まれではあるが、母体・胎児・新生児への重篤な播種感染を引き起こす可能性がある。表1と表2に示すように、出生した新生児の臨床症状と重症度は、妊娠中のどの時期に感染したかに依存する。母体が第1~2三半期に水痘を発症した場合、胎児の皮膚、眼、骨、中枢神経系にみられる播種性病変を特徴とする胎児水痘(先天性水痘症候群)を発症する可能性がある。胎児水痘は、約30%が致死的な状態になり、生存例の2%に胎児期に生じた後遺症が残存する。
 
 一方、新生児水痘は、分娩前の3週間に母親が感染した場合に発症する(表1、2)。
水痘の母子感染には3つの経路があり、以下のように定義される。
・経胎盤感染
・分娩時の直接感染(皮膚病変、血液など)
・呼吸器飛沫、小水疱との皮膚接触による産後の感染
 
 胎内で感染が成立した場合、新生児水痘の重症度は、母体感染から分娩までの時間(表1)により決定される。胎盤を介して母親のVZVに対する特異的抗体がどれだけ移行するかが重要で、抗体は新生児の感染症の制御に有効である。
 新生児にとって最もリスクの高い時期は、出産直前・直後(-5日~+2日)に母体が水痘を発症した場合である。この場合、胎児は高いウイルス量に曝露され、母親から十分な特異抗体を獲得する時間がない。この時期の感染は、新生児の致死的な播種性疾患を呈する割合が高い(感染率は最大20%~50%、致死率は20%、表2)。一般的に生後5日目から10日目の間に発症する。上記の研究が行われた当時から、集中治療や抗ウイルス治療、免疫療法が大幅に進歩したため、上記の致死率は現在では大幅に低下した。
 
 分娩20日前から5日前に母体が水痘を発症した場合、新生児は、生後0-4日目(母体発症後9-15日目に相当)頃に発症する可能性がある。この場合、症状は一般的にに軽度から中等度で、致死的な症例報告はない。
 母体のVZV感染時期にかかわらず、感染した新生児は生後1年以内に帯状疱疹を発症する可能性がある。妊婦の帯状疱疹は、母親の特異的抗体が胎盤から移行するため、胎児へのリスクはない(表1)。
 
 VZVの潜伏期間が長い(10-23日)ことを考えると、生後10-12日目までに新生児が発症する場合には、出生前に感染したと考えられる。生後13日目以降に発症する場合、出生後感染の可能性が高いと考える。早産児で無ければ、母親が抗体陰性であったとしても、生後1ヶ月の間に出生後に獲得したVZV感染症は、ほとんどの場合、軽症から中等症である。両者の臨床症状が大きく異なる理由は、新生児の細胞性免疫が重要な役割を果たしている可能性がある。新生児の細胞性免疫は、経胎盤的なVZVの血流感染を阻止するには不十分だが、経気道感染後のVZV複製を阻害できる可能性がある。

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母体が感染した時期
臨床症状
妊娠20週までの母体水痘
胎児水痘の発症率2%。発症した場合、死産率20%。
第3三半期の母体水痘
母体の水痘肺炎10−20%。その場合の死産率10%。
分娩前後の母体水痘
・分娩前5−6日以前に発症
・分娩前4−5日〜分娩後2日に発症
新生児水痘の発生率は20−50%
死亡率 0%
死亡率 0−3%(皮疹が生後0−4で出現した場合)
死亡率 〜20%(皮疹が生後5−12日で出現した場合)
時期に関係なく
母体が水痘発症
子宮内胎児死亡のリスク
生後1年以内の乳児の帯状疱疹のリスク
母体の帯状疱疹
母体・胎児・新生児に重篤なリスクなし

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予防と治療
 1969年以降、健康な対象に特異的免疫グロブリンを投与し、VZV合併症を予防する効果を証明されてきた。しかし、新生児の感染予防における水痘帯状疱疹免疫グロブリン(VZIG)の役割は、まだ十分に実証されていない。5件の研究のうち、2件のみ前向き試験が実施されている。VZVに曝露された新生児にVZIGを投与すると、およそ50%の例で感染を予防することが示されている。これらの研究で最も重症化した症例は、母体が発症してから5日以内に生まれた新生児であった。しかし、VZIGの予防を行っても重症化し、致死的な転帰をたどった症例報告もある。
 
VZIGの推奨投与量(筋注)は以下の通り
・新生児<2.0kg:125 U.
・新生児>2.0kg:250 U.
 
 米国ではVZIGが入手可能で推奨されているが、欧州の多くの国(日本も含む)では入手困難である。ヨーロッパの多くの国では、新生児水痘を予防するための代替手段は、静脈免疫グロブリン(IVIG)(400 mg/kg 1回)とアシクロビルを併用、またはIVIG単独になる。この方法は、分娩の7日前から5日後までに発症した母体から出生した15人の新生児を評価した研究で有効であると示された。アシクロビルは母体発症日から7日後に開始し、5 日間継続した.IVIGとアシクロビル静脈内投与を受けた新生児10人のうち、水痘を発症した新生児はいなかった。
 
・アシクロビル
 ほとんどの専門家は新生児水痘にアシクロビルを推奨する。アシクロビルはヘルペスウイルスに対して効果的な抗ウイルス薬であり、新生児において十分な薬物動態学的データと安全性プロファイルが得られている。アシクロビルを用いた最近の研究では、現在の投与量では中枢神経系の治療効果が得られない可能性が示唆されている。そのため、満期産の新生児には、より投与間隔を短くした投与が必要となるかもしれない。
 
 
シナリオを題材にした治療方針の決定
・シナリオ1:母親から感染した場合
1a. 最悪のケース:出産直前・直後 (D-5~D+2)に母体が水痘発症:周産期感染症
 上述のように、分娩直前・直後に発症した場合、生命を脅かす疾患を発症する可能性が最も高く、完全に無症状の新生児であっても、出生直後に厳重な予防措置と予防的治療を行うことが正当化される。治療開始時期は、VZVの長い潜伏期間(ウイルスの播種と発疹は、ウイルスとの接触後9日から15日の間に発生する。母体が発疹を発症した日と考えられてる。)によって決定される。
 
治療上の推奨事項
・新生児と母親を少なくとも 3 日間入院させる(両者とも空気感染・接触感染対策を実施)
・新生児には、VZIG(上記の投与量を参照)、または、利用できない場合、生後48~96時間以内にできるだけ早くIVIG 400mg/kgのいずれかを投与する。
・児に合併症がなく、無症状で、両親が信頼できる場合は、IVIGとアシクロビル治療の間、母子ともに退院することも化膿。
・母体の発症後7日目からアシクロビル30mg/kg/日を10日間静脈内投与する。
・末梢静脈の確保が困難で、アシクロビルを静脈内投与できなかった場合、完全に無症状で、慎重な医学的監視下にあることを条件に、アシクロビル経口投与を開始する。臨床症状が悪化した場合、中心静脈内投与が推奨されるべきである。
・まれに、新生児が治療にもかかわらず水痘症状を発症する場合、少なくとも3週間はアシクロビルを投与し、基礎疾患(先天性免疫不全症、代謝性疾患、ウイルス抵抗性など)の検索を行う。
 
1.b 出産後D+3~D+28で母体が水痘発症:産後感染症
 表1と表2に示すように、新生児感染のリスクも高く、予防的治療が必要。しかし、重症化リスクは低い。
 
治療上の推奨事項
・母体の発症後7日目からアシクロビル80mg/kg/日を経口投与、7~10日間投与する。
・入院の適応と期間(空気感染と接触感染対策を伴う)は、母子の臨床状態、親のコンプライアンス、社会的環境に応じて、それぞれのケースで検討するべきである。疑わしい場合、医療監視下での入院が必要。
・まれに、予防治療にもかかわらず新生児が水痘を発症した場合、臨床経過と重症度に応じて入院し、少なくとも3週間はアシクロビルの静脈内投与に切り替え、基礎疾患(先天性免疫不全症、代謝性疾患、ウイルス抵抗性など)の検査を行うことを検討する。
 
1.c 出産前にD-20からD-6に母体が水痘発症
 この場合の推奨事項は公表されていない。このような新生児は、水痘を発症し、出生時には明らかな皮膚病変を呈することもある。しかし、一般的に軽症である(死亡例は報告されていない)。重症化を防ぐため治療を行うべきであるが、以下のように臨床症状に応じて治療を行うべきであると考える。
 
・新生児と母親を少なくとも3日間は入院させる(空気感染・接触感染対策)
・新生児に、VZIG(上記の投与量を参照)、または利用できない場合はIVIG 400 mg/kgのいずれかを、できるだけ早く(生後48~96時間以内に)投与
・児に他の合併症がなく、無症状で、両親が信頼できる場合、免疫グロブリンの投与後に退院することができる。疑わしい場合は、生後1週間は医療監視下での入院とする。
・出生時に小水疱が存在する場合や出現した場合、アシクロビル 80mg/kg/日を4回に分けて経口投与し、7日間(臨床経過に応じて)継続する。入院させて監視する。入院期間は、母子の臨床状態、親のコンプライアンス、社会的環境に応じて、それぞれのケースで検討すべきである(空気感染および接触予感染対策)。
 
 
シナリオ2:未熟児
 以下の患者では、感染源が母親であろうと、その他の人であろうと、1.aと同様の推奨事項が適応される。
・超早産児(妊娠週数(GA)<28週)は、母体のVZVの血清学的状態にかかわらず。
・免疫を持っていない母親から生まれた早産児(妊娠28~37週)
 
シナリオ3:VZV感染者と接触した無症状の新生児の場合
 VZVの感染は、小水疱との直接皮膚接触だけでなく、主に空気感染経路(飛沫核)を介して起こる。
 この場合、母親のVZVに対する免疫の有無が、新生児の感染リスクを決定する。最初のステップは、母親に注意深く問診し、水痘の既往を確認する。水痘感染が不確かな場合、血清学的検査を母に実施し、結果が判明するまでは新生児は注意深く観察する。
 
母の抗体陽性が判明した場合
 児が水痘を発症するリスクは非常に低い。
 治療は必要ない
 自宅で児の経過観察し、接触後2週間以内に臨床症状が現れた場合、再診するよう促す。
 
水痘の症状や徴候がある場合
 シナリオ4を参照。
 
・母親が抗体陰性であることが判明した場合、または検査を拒否した場合。
 児にアシクロビルPO 80mg/kg/日を投与、接触後7日目から7日間投与。
 潜伏期間中は慎重に児を監視する。入院の適応と期間(空気感染および接触感染予防策)については、児の臨床状態、親のコンプライアンス、社会的環境に応じて、それぞれのケースで検討する必要がある。疑わしい場合には、医療監視下での入院が必要。
 
シナリオ4:水痘の臨床症状を呈した生後1ヶ月未満の乳児
 まず、発熱と水疱を呈するすべての新生児において、ウイルス性発疹があっても細菌感染の合併を排除してはならない。細菌感染症を除外するため、臨床的状態に応じて、十分な検査を行う必要がある。
・38.5℃以上の発熱またはCRP上昇または、全身状態の悪化があるすべての新生児。
 ・完全な微生物学的検査(髄液検査を含む)を行う。
 ・培養結果が判明するまでは、アシクロビルに加えて抗菌薬を静脈内投与する。 
 ・細菌感染源が確認された場合、適切な抗菌薬への切り替えを検討する。
 
・上級医の診察を受けて、水痘と確定診断され、38.5℃未満の発熱で、炎症反応上昇もなく、全身状態の悪化がない場合
 ・余分な侵襲的検査や抗菌薬投与を行わず、慎重な医学的監視の下で入院させる。
 ・アシクロビルで治療する。
 ・新たな症状・徴候・悪化が見られた場合、他の検査や治療を追加する。
 
 水痘の治療は、常にアシクロビルが推奨される。投与方法は母体の水痘に対する免疫の有無によって異なる。
・水痘の病歴が確認されている母親
 ・重度の水痘のリスクが低い。
 ・アシクロビルPO 80mg/kg/日を4回に分けて投与する。
 ・臨床症状と社会的状況に応じて入院させる。
 
・母体に水痘の既往歴がない場合、または状態が不明な場合。
 ・強制入院
 ・児には、アシクロビルを最低7日間投与する。
 ・中等症から重症には、アシクロビル30mg/kg/日を静脈内投与し、臨床的に有意な改善が見られたらアシクロビル内服に切り替える。軽症例に対して、アシクロビルPO 80mg/kg/日を経口投与。
 
シナリオ5:水痘の臨床症状を呈した生後1ヶ月以上の乳児
 基礎疾患がなく、合併症を伴わない水痘を呈している生後1ヶ月以上の乳児には、母親のVZV免疫状態にかかわらず、全例にはアシクロビルの投与は推奨されない。抗ウイルス薬は、臨床症状と重症度(全身状態、発疹の程度、神経学的合併症や重複感染の有無など)に基づいて決定されるべき。
 シナリオ4の項で詳述したことと同様に、水痘があったからといって、細菌感染症を排除するわけではない。場合により、他の発熱の原因が無いか慎重に管理する必要がある。
 
家族の予防接種
 VZV感染症の新生児と接触したすべてのVZV抗体陰性者は、禁忌とされている場合を除き(乳児および免疫不全者)、接触後72時間以内に予防接種を受けるべきである(6 週間以上間隔をあけて2回の接種を行う)。重症化のリスクが大きい青年や成人に対して特に重要である。