冬の小児科病棟と言えば、RSウイルスによる細気管支炎の子がたくさん入院しているものでした。しかし、RSウイルスの流行は、いつしか夏に移動し、通年で流行するようになり、「日本も亜熱帯になったなあ」と、小児科医に地球温暖化の影響を強く感じさせるものでした。
しかし、今年は、COVID-19パンデミックの影響で、RSウイルスは(少なくとも関東圏で)流行がほぼ無くなりました。しかし、RSウイルスにより引き起こされる細気管支炎は、重要な病気であることには変わりありません。
こんな感じの苦しそうな咳をします。
この細気管支炎に対しては、治療に関する研究が多数行われましたが、ネガティブスタディの嵐で、結局、エビデンスのある治療法は「鼻水を吸引する」と「酸素を与える」だけという、小児科医にとって「病気の自然経過を辛抱強く待つ」ことの重要性を教える、非常に教育的な疾患とも言えます。
今回、紹介する論文は、「細気管支炎の小児に、SpO2の連続モニターを行ったほうが良いか?」という、とても、臨床的に使えるスタディです。というのは、成人にとってSPO2モニターを着用することはなんともないことなのですが、乳幼児にSpO2モニターを着用させると、
手足をバタバタして正確に測れない→アラーム→テープ巻き直し
モニターを巻いた手を舐める→テープが剥がれる→テープ巻き直し
という、なかなか大変な作業なのです。
今回の研究の要点としては、
・細気管支炎の治療反応が良い場合、早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
ということが言えます。
これまでは、「何か介入を行って、早く良くしよう」という研究が多かったですが、「何かを無くしても、臨床経過変わらないやん」という研究も面白いと感じました。
Intermittent vs Continuous Pulse Oximetry in Hospitalized Infants With Stabilized Bronchiolitis A Randomized Clinical Trial
JAMA March 1, 2021
重要性:
細気管支炎で入院している乳児において、酸素飽和度のモニタリングは、間欠的か連続的かどちらが良いかについては、高いレベルのエビデンスはなく、実臨床でのばらつきが大きい。
目的:
酸素飽和度モニターを間欠的または連続的に実施した時、臨床転帰に対する効果を比較する。
方法:
この研究は、多施設共同無作為化臨床試験である。2016 年 11 月 1 日から 2019 年 5 月 31 日までにカナダのオンタリオ州の市中病院および小児病院に細気管支炎で入院した生後 4 週間から 24 ヵ月の乳児で、酸素の使用に関わらず状態が安定した後の患者を対象とした。4時間毎の間欠的な酸素飽和度測定(n=114)(間欠的モニター群)または連続的な酸素飽和度測定(n=115)(連続モニター群)を実施し、酸素飽和度90%以上を目標値とする。主要評価項目は、無作為化から退院までの入院期間である。副次評価項目は、入院から退院までの期間、および無作為化から測定された転帰(治療介入、安全性(集中治療室への入室と再入室)、親の不安と仕事を休んだ日数、看護師の満足度が含まれた。
結果:
登録されたのは229人の乳児(中央値[IQR]年齢4.0[2.2-8.5]ヵ月、男性136人[59.4%]、市中病院 101人[44.1%])であった。無作為化から退院までの入院期間の中央値は、間欠的モニター群で27.6時間(四分位範囲[IQR]、18.8-49.6時間)、連続モニター群で25.4時間(IQR、18.3-47.6時間)であった 。中央値の差は2.2時間(95%CI、-1.9-6.3時間;P = 0.17)であった。入院から退院までの期間の中央値は、間欠モニター群と連続モニター群の間に有意差は認められなかった(49.1 [IQR、37.2~87.0]時間 vs 46.0 [IQR、32.5~73.8]時間(P = 0.13))。また、酸素投与の頻度や期間は、間欠群と継続群で有意差は認められなかった。(酸素投与あり 4/114人(3.5%)対 9/115人(7.8%)(P = 0.16)、酸素投与時間 中央値:20.6(IQR、7.6~46.1)時間 vs. 21.4(IQR、11.6~52.9)時間(P = 0.66)。同様に、集中治療室入室の頻度も有意差は認められなかった(1/114人(0.9%) vs. 2/115人(2.7%)(P = 0.76))。再入院率、親の不安スコア、親が仕事を休んだ日数も、有意差は認めなかった。モニタリングに対する看護満足度の平均(SD)は、間欠モニター群で有意に高かった(8.6(1.7)vs. 7.1(2.8)、平均差 1.5(95%CI、0.9-2.2;P < 0.001))。
結論
本研究では、酸素投与の有無にかかわらず安定化した細気管支炎で入院し、目標SpO2を90%以上で管理した乳児において、間欠的モニターと連続的モニターで、入院期間などの臨床的な結果に有意差はなかった。看護師の満足度は、間欠的モニターの方が高かった。臨床上は、モニタリングの程度は少ないほうが望ましいので、本研究の知見は、細気管支炎で入院した安定した乳児に間欠的モニターを使用することを支持する。
この研究の患者層をもう少し詳しく見ます。
両群ともに、特に患者層の偏りはありません。生後4ヶ月位が中央値で、男児が5割強です。
救急外来〜ランダム化前の時点で、
・3割に抗菌薬
・4割にβ刺激薬吸入
・4割にエピネフリン吸入
・15%にステロイド投与
・4割に酸素投与
・6割に連続的なSpO2モニターリング
が行われていました。
上述しましたが、一般的には、細気管支炎に、抗菌薬・β刺激薬・ステロイドは無効と、考えられています。しかし、「たいして効かないと分かっちゃいるけど…」、日本ではしばしば上のような治療が行われます。カナダでも似たような事情が垣間見えます。
入院〜ランダム化までの中央値は16時間です(前の日の夕方に入院して、次の日の日中に試験に参加するパターンが多いのでしょうか)。
ランダム化の時点で、
・呼吸数(中央値)は40回程度(この月齢ならちょっと速いけど普通)
・SpO2(中央値)は97%
・酸素投与中であったのは、15%程度
とかなり改善した状態です。
つまり本研究のメインの患者は、「細気管支炎で入院したけど、一晩の治療でかなり良くなった生後4ヶ月位の乳児」です。実際に、ランダム化以降は、21時間ほどで酸素投与が不要となっており、気管支拡張薬、ステロイドなどもあまり使われていません。また、本研究ではSpO2 90%を目標にしていますが、日本の小児科病棟でこの基準は攻めすぎかなという印象を持ちます。
非常に面白いのは、間欠的モニターにすると看護スタッフの満足度が向上することですね。実際に、SpO2モニターをある程度元気な子供につけると、よく外すし、アラームが鳴って見に行っても、モニターのテープを舐めていたり、バタバタ手足を動かして正確に測定できていないだけのことがほとんどです。付添の両親も「夜にモニターが鳴って、眠れなかった」と訴えることも多いです。
この論文を日本の医療現場で活かすとすると、
・細気管支炎で入院しても、治療反応が良い場合には、
早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
毎日、デバイスの必要性を検討し、モニターの必要性を吟味することが重要だと思います。