小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の下気道感染症(肺炎を除く)に抗菌薬投与の意義は無い

 小児の下気道感染症に抗菌薬を出すのかは、小児科医の永遠(?)のテーマです。「抗菌薬を出さずに治る子も多いけど、そのまま肺炎で入院になる子もいるよ」というのが実感なのですが、そもそも抗菌薬を出せば肺炎で入院になる子が減るのか?ということが重要だと思います。

 (抗菌薬を出して入院しても、しょうがなかったと諦めがつきますが、抗菌薬出さずに入院してしまうと、後悔する気持ちはとても良くわかります。)

 

 この研究は、英国のプライマリケア(開業クリニック)で、肺炎までは疑わない下気道感染症(いわゆる気管支炎)に、アモキシシリンを処方した結果、症状の改善が早くなるかを検討した研究です。研究デザインは、ランダム化比較試験でよくできていますが、プライマリケアでの検討ですので、「肺炎で無い」判断は臨床医によります(画像的には判断していません)。

 結果として、アモキシシリンを処方しても、中等症以上のそれなりにつらい症状が続く期間は、プラセボと差がなかったというものでした。

 結論としては、肺炎を疑うほど状態が悪くない場合には、抗菌薬を処方せずに経過観察することが妥当と言えます。

 

Antibiotics for lower respiratory tract infection in children presenting in primary care in England (ARTIC PC): a double-blind, randomised, placebo-controlled trial 
Lancet . 2021 Oct 16;398(10309):1417-1426.
 
背景
 薬剤耐性菌は、世界的な公衆衛生上の脅威である。合併症のない下気道感染症(LRTI)を発症した小児に抗菌薬が処方されることは非常に多いが、抗菌薬の有効性に関するランダム化比較試験によるエビデンスはほとんどない。ARTIC PCでは、プライマリケアで合併症のないLRTIを発症した小児において、アモキシシリンにより有症状期間が短縮するかどうかを評価した。
 
方法
ARTIC PCは、イングランドの56のクリニックで行われた二重盲検無作為化プラセボ対照試験である。対象は、プライマリケアにおいて、臨床的に肺炎までは疑われないが、感染症由来と判断される合併症のない急性LRTIを発症した症例である。発症から21日以内の生後6カ月から12歳の小児を対象とした。患者は、アモキシシリン50mg/kg/日またはプラセボを1日3回に分けて7日間経口投与する2つの群に、1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は,中等度以上の症状(家族が記録する日誌を用いた)の持続期間で、最長28日間または症状が消失するまでフォローした。主要評価項目と安全性は、intention-to-treatで評価されました。本試験はISRCTNレジストリに登録されている(ISRCTN79914298)。
 
結果
2016年11月9日から2020年3月17日の間に、432人の小児が抗菌薬群(n=221)またはプラセボ群(n=211)にランダムに割り付けられた。症状の持続期間に関するデータは317例(73%)で入手可能であった。中等度以上の持続期間の中央値は、両群間で差がなかった(抗菌薬群5日[IQR 4-11]vs. プラセボ群6日[4-15]、ハザード比[HR]1-13[95%CI 0-90-1-42])。事前に規定した 5 つの臨床症状(胸部所見、発熱、医師による全身状態評価、喀痰または胸部ラ音、息切れ)においても、治療群間の差は認められなかった。
 
結論
合併症のない小児の下気道感染症に対して、アモキシシリンを処方しても、臨床的に優位な効果は期待できない。医師が肺炎を疑わない限り、下気道感染症に罹患した小児に対して、抗菌薬の処方は行うべきではない。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov