小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ジフテリアのまとめ(Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseasesなどのまとめ)

 ジフテリアは、Corynebacterium diphtheriaeの感染によって生じ中毒症(toxicosis)である。
 
起炎菌
 C. diphtheriaeの分離培養には、Tinsdale培地、亜テルル酸塩加血液寒天培地、Loffler培地などを用いる。分離された菌の毒素産生能を見る方法には、寒天内沈降反応法(Elek法)や培養細胞法、ウサギ試験法、モルモット試験法などがある。PCRでA, B toxinの遺伝子を検出できるが、毒素産生能があるかまでは分からない。
 3つのバイオタイプがある(gravis, mitis, intermedius)が、病原性との間に密接な関係はない。
*Corynebacterium ulceransはジフテリアに類似した臨床像を呈する。2001年に日本でもジフテリア毒素産生能をもつC. ulceransが分離された。
 
 
 
疫学
 日本では、1945年には8万6千人の患者発生があったが、この10年間では21名に減少している。ソ連崩壊時に、ワクチン供給不足が生じて、ジフテリアの発生数が増加した。
 
病態
 C. diphtheriaaeは、皮膚、粘膜に感染し、表面に留まり、局所の炎症を呈する。主な病原因子は、62-kdの外毒素で、segment Aとsegment Bから成る。分離して、tRNA translocaseを不活化し、タンパク合成を阻害する。数日以内に、気道に厚い偽膜を形成する。偽膜は、菌体、上皮細胞、フィブリン、白血球、赤血球から構成される。偽膜は、粘膜に密着し、剥がすことが難しく、無理に剥がすと出血して、その下には、浮腫状の粘膜下層が見える。毒素により、口蓋や下咽頭の麻痺が生じる。毒素が体内に吸収され血行性に全身に播種されると、腎臓の集合管、肝実質の壊死、血小板減少、心筋症、脱髄性ニューロパチーが起きる。心筋症とニューロパチーは、発症後2−10週後に発症する。
 
臨床症状
 1400例のケースの報告では、94%の症例で扁桃咽頭に病変を認めている。鼻腔・喉頭の病変が、それについで多い。潜伏期間は2−4日間で、局所の炎症所見から恥松。発熱は無いか、あっても微熱程度。鼻腔粘膜の炎症は乳児に見られることが多い。鼻翼と上口唇の浅い潰瘍が特徴的である。咽頭痛が最も多い初期症状で、発熱を認めるのは半数程度。嚥下障害、嗄声、頭痛などは半数以下である。
 咽頭の発赤と扁桃の偽膜を認める。その偽膜が広がってゆく。軟部組織の浮腫とリンパ節腫脹により、bullneckと言われる頸部の腫脹を認める。喉頭ジフテリアは気道狭窄を高率に引き起こす。
 滑皮様の偽膜が形成され、剥がすことが困難である。
 
 皮膚ジフテリアは、表層の潰瘍で灰色〜褐色の潰瘍ができ、進行はゆっくりである。他に、外耳炎、結膜炎、外陰部潰瘍などを呈することもある。
 
 毒素による症状は、10−25%の症例で合併する。死亡原因の50−60%を占める。心筋症は、発症後2−3週間目に最初の症状がみられる。ちょうど、咽頭症状が改善する時期になる。発熱が無いのに、頻脈になることが重要な臨床症状である。神経症状は、発症後2−3週間目に、軟口蓋の感覚低下や麻痺から発症する。その後、後咽頭喉頭、顔面神経などの麻痺に進展する。鼻閉声、嚥下困難、誤嚥などが起きる。その他の脳神経麻痺や、対称性のポリニューロパチーもみられる。
 
 喉頭浮腫とbullneckによる機械的な気道の圧迫、心筋炎の合併が死亡の主要な原因である。

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診断
 咽頭と鼻腔から培養検体を採取する。専用培地を用いて培養する。Gram染色は有用ではない。確定診断には、C. diphtheriaeの検出が必須である。
 
治療
 ジフテリア抗毒素が、遊離した毒素の中和をする。臨床的にジフテリアが疑わしい場合には、診断を待たずに抗毒素を投与するべきである。発症初日に抗毒素を投与した時の死亡率は1%で、4日目までの投与になると死亡率が20倍になるという研究もある。抗毒素はウマ血清から作成しており、アナフィラキシーと血清病に注意が必要である。IVIGの有効性は証明されておらず、推奨されない。
 抗菌薬は、抗毒素に代わるものではないが、毒素の産生を中断するために、適応がある。C. diphtheriaeは、通常ペニシリンマクロライド、クリンダマイシン、リファンピシン、キノロン、テトラサイクリンに感受性がある。臨床試験で効果が確認されているのは、ペニシリンとエリスロマイシンである。エリスロマイシンが、鼻咽頭からの除菌率について、ペニシリンより少し良い。エリスロマイシン 40-50mg/kg/day(最大量2g)、または、水溶性ペニシリンG 10-15万単位/kg/d、プロカインペニシリン筋注が選択肢で、治療期間は14日間である。治療が終了してから24時間以上経過した時点で、培養陰性を確認する。もし、培養陽性なら、エリスロマイシンによる治療を繰り返す。
 
感染予防
 咽頭ジフテリアの場合には、飛沫感染予防策を実施する。皮膚ジフテリアでは、接触感染予防策を実施する。この予防策は、治療終了後、培養陰性が2回確認できるまでは継続する。
 
濃厚接触
 家庭内で濃厚接触した場合には、家族が保菌する確率は0−25%である。家族がジフテリアを発症する可能性は2%と報告されている。そのため、迅速に濃厚接触者を特定し、下記の措置を講じる。
・7日間の潜伏期間内に、発症しないか厳重に監視する
・鼻腔、咽頭、その他の部位の培養を採取する
・予防的抗菌薬を投与する。エリスロマイシン7−10日間が推奨される。
・5年以内にジフテリアトキソイドワクチンをブースター接種していない場合には、ワクチンを接種する。
 
無症候性保菌者
・予防的抗菌薬を7−10日間投与する
・年齢に応じて適切なジフテリアトキソイドワクチンを接種する
飛沫感染予防策または接触感染予防策を実施する
・治療終了後2週間以上あけて培養陰性を確認する。もし培養が陽性なら10日間のエリスロマイシンを追加する。