小児感染症科医のお勉強ノート

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精巣上体炎のまとめ (Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases, Fifth Edition)

 
精巣上体は、精巣の上極後方に付着する管状の構造物で、精子の貯蔵・成熟を担っている。精巣上体炎は、精巣上体に炎症反応・感染が生じる病態である。
 
原因・疫学・病態生理
 精巣上体炎の正確な疫学データは無いが、性的活動がある思春期と若い成人男子に多い。思春期前の男児には稀である。しかし、1000名の男児あたり1.2例の発生率という報告もある。入院は夏と冬に多い。年齢分布は2峰性である。5歳未満の幼児と思春期前記に多い。精巣上体炎は、精巣捻転よりも頻度が高い。
 精巣捻転の原因は、細菌感染やウイルス感染後の感染後炎症反応(inflammaatory transmitted reaction)か尿道感染である。校舎は、性感染症STI)の原因微生物、生殖泌尿器の病原体により起きる。尿路閉塞をきたすような解剖学的異常、神経因性膀胱、排泄腔の異常などが背景にあることがある。非常に稀であるが、血行性に精巣上体炎を生じることもある(Haemophilus influenzae, Salmonella spp., Streptococcus pneumoniaae, Brucella spp., Mycobacterium tuberculosisなど)。
 時に、外傷、全身疾患(IgA血管炎や川崎病)、薬剤(アミオダロン)などで精巣上体炎を生じつことがある。思春期前の男児に精巣上体炎を繰り返す場合には、解剖学的異常について検討する。
 
背景
原因微生物
<思春期前>
 
構造的異常、神経因性膀胱
腸内細菌科細菌
血行性転移
Haemophilus influenzae, Salmonella spp., Streptococcus pneumoniaae, Neisseeriaa meningitidisなど
感染後炎症反応
<思春期>
 
Chlamydia trachoma’s, Neisseria gonorrheae
生殖泌尿器疾患
腸内細菌科細菌
血行性転移
Streptococcus pneumoniaae, Neisseeriaa meningitidis, Mycobacterium tuberculosesなど
 
臨床症状と鑑別診断
 精巣上体炎は、典型的には急性発症する。片側性の陰嚢痛と陰嚢腫脹を生じ、1−2日間で増悪する。排尿時痛など下部尿虚感染症状をよく認める。STI関連の精巣上体炎は、尿道炎症状があるが、多くは無症候性である。鑑別診断は、精巣捻転で、緊急手術が必要になる。細菌性精巣炎は、精巣上体炎が進展したもので、重要な鑑別診断である。Prehn徴候(精巣を持ち上げると疼痛が改善する)、精巣挙筋反射(精巣上体炎ではあ陽性であるが、精巣捻転では消失する)などが有用である。尿道口からの排膿は、精巣上体炎を示唆する。思春期前には、尿検査と尿培養を実施するが、精巣上体炎では陽性率は低い。診断には、ドップラーエコー検査が最も有用である。
 
検査所見と診断
 原因微生物は、尿や尿有働分泌物から検出される可能性がある。特にSTI関連の精巣上体炎が疑われる時には、実施する。Gram染色と、クラミジアと淋菌のNAATを実施する。思春期前では、尿培養が推奨されるが、原因菌が検出されないことも多い。
 
治療と合併症
 STI関連の精巣上体炎が疑われる時には、早期のエンピリック治療が、治癒率を挙げ、症状改善を早くし、感染の拡大を予防できる。淋菌とクラミジアが疑われる時には、セフトリアキソン単回+ドキシサイクリン10日間を使用する。大腸菌緑膿菌が疑われる時には、レボフロキサシンやオフロキサシンを推奨する。直接穿刺は、他の検査で原因菌が不明の場合や膿瘍を形成した場合には、検討される。さらに、ベッド上安静、陰嚢の挙上、鎮痛剤を使用する。3日以内に改善がない場合には、入院を検討する。
 感染後の炎症反応の場合には、鎮痛剤など保存的治療を行う。
 合併症は、精巣膿瘍、慢性精巣上体炎、精巣梗塞、不妊症である。膿瘍ドレナージなどが必要となることは稀である。