小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

IRAK4 欠損症の特徴と感染症予防戦略

IRAK4欠損症とは
 IRAK4とは、Interleukin-1 receptor associated kinase4のこと。ヒトの自然免疫系は、病原体が侵入すると、病原体に特異的な分子パターンを認識するレセプター (pattern recognition receptor: PRR) がある。PRRの一つが、Toll-like receptor (TLR)。TLRからのシグナルが細胞内に伝達されて、サイトカイン産生が起こる。このシグナル伝達の経路で重要な分子がIRAK4である。IRAK4を欠損すると、TLRに入った刺激に対して、生体が反応できず、感染症に対する自然免疫系が正常に作動しない。そのため、ブドウ球菌や肺炎球菌になどに対する易感染性が見られ、重症化する。
 国内からも報告されているが、まれな先天性免疫不全症候群の一つである。
 

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IRAK-4欠損症とその類縁疾患のMyD88欠損症の最大のケースシリーズである論文を紹介します。九州大学高田先生の総説「IRAK4欠損症と感染症」(小児感染免疫 2011;23:81)も参考にしました。
 
Clinical features and outcome of patients with IRAK-4 and MyD88 deficiency
Picard C, et al. Medicine (Baltimore). 2010;89:403.
 
抄録
 IRAK-4欠損症とMyD88欠損症は、常染色体優性遺伝の疾患で、Toll-like receptor(TLR)とインターロイキン-1受容体を介した免疫を損なう。15カ国37家系のIRAK-4欠損症48例とMyD88欠損症12例の臨床的特徴と転帰を報告する。
 
 IRAK-4 欠損症と MyD88 欠損症の臨床的特徴の区別はできなかった。重篤なウイルス、寄生虫、真菌感染症は認められず、特定の細菌感染症が見られた。非侵襲性の細菌感染症は52例で認められ、上気道感染と皮膚の感染症の発生率が高く、主に緑膿菌黄色ブドウ球菌がそれぞれの原因となっていた。侵襲性肺炎球菌症が、41例(68%)の患者に72回(52.2%)認められた。緑膿菌黄色ブドウ球菌の侵襲性感染症も発生していた(それぞれ13例(16.7%)、13例(16%)で発生)。全身性の炎症反応は弱く遅延していた。最初の侵襲性感染症は、53例(88.3%)で2歳前に、19例(32.7%)で新生児期に発生した。殆どの生存者で、侵襲性感染を再発していた(n = 36/50、72%)。
 
 臨床転帰は不良で、24例が死亡した。最初の侵襲性感染のエピソードで10例が死亡、侵襲性肺炎球菌感染症で16例が死亡した。しかし、8 歳以降では死亡例はなく、14 歳以降では侵襲性感染症は報告されていなかった。抗生物質の予防(n = 34)、肺炎球菌ワクチン(n = 31)、 IgG 補充療法(n = 19)を実施した場合、10 代までは患者に有益な影響を与えたが、それ以降は影響は見られなかった。
 
 IRAK-4およびMyD88欠損症の患者は、乳幼児期に、侵襲性肺炎球菌症など生命を脅かす重篤な細菌感染症を発症する。重篤感染症を発症する危険性があることを患者や家族に説明し、感染が疑われる場合や発熱がある場合、経験的な抗菌薬の投与と速やかな受診が強く推奨される。思春期までは、感染症の予防措置が有益である。
 
 
 追加の解説
 感染症の種類は、以下のように髄膜炎・敗血症・関節炎・骨髄炎など重篤感染症が多く見られます。皮下膿瘍、中耳炎・副鼻腔炎、肺炎なども頻度が高いことが分かります。 

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 感染症の起炎菌です。侵襲性感染症は、肺炎球菌が約半数を占めます。非侵襲性感染では、黄色ブドウ球菌が最多(45.5%)です。Gram陰性菌の緑膿菌の割合もそれなりに多いです。

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 生存曲線です。生存率は、50%強です。多くの患者さんが5歳位までに亡くなるのですが、10歳以降は生存曲線がプラトーに達します。つまり、10代までなんとか感染症から守ってあげれば、その後は普通の生活ができることを示唆します。
 

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 感染症予防がどのような方法が有るのかです。抗菌薬の予防内服は多くの症例で実施されています。使用する抗菌薬は、ペニシリン、ST合剤、ペニシリンとST合剤併用などが、主流のようです。
 侵襲性肺炎球菌感染症を予防するためのペニシリン
  +
 頻度が最も高い黄色ブドウ球菌を予防するためのST合剤
という戦略でしょうか。肺炎球菌感染を予防するためのペニシリンは、無脾症患者への戦略としても採用されるので、合理的かなと思います。

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 データ数が少ないのでなんとも言えませんが、肺炎球菌ワクチンに対する抗体産生が悪い可能性があります。そのため、ガンマグロブリン補充療法も合理的だと思われます。また、結合型肺炎球菌ワクチン(プレベナー)に加えて、自費で23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)の併用も考えても良いかと思われます。

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 この疾患に関しては、確定診断は遺伝子検査ですが、単球内のTNF-α産生をフローサイトメーターで測定し、迅速にスクリーニングする方法が有るようです。リンパ球サブセットや血清IgG値には、ほとんど異常はなく、一般的な免疫のスクリーニングだけでは、確定診断できない病気です。重篤な侵襲性細菌感染症の乳幼児を見たときには、鑑別に挙げ、早期診断できることが重要です。臍帯脱落遅延が見られる割合が多く、重要な問診事項になります。