小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

腸チフスワクチンの使い分け

 海外渡航に行く時に、やっておいた方が良いワクチンに、腸チフスワクチンがあります。私も、東南アジアに行く時に、TYPHIM Viを接種しました。いまは、結合型ワクチンが開発され、より有効性が高くなっています。

 日本でも一部のトラベルクリニックで接種可能とのことです。

 
チフスワクチンは3種類あります。
(1) Vi-TT腸チフス結合型ワクチン (Vi-TT typhoid conjugate vaccine; TCV)
(2) Viポリサッカライドワクチン (Vi polysaccharide vaccine) 
(3) 経口生ワクチン (Ty21a vaccine)
3種類のワクチンの違いについてまとめました。
 
(1) Vi-TT腸チフス結合型ワクチン (Vi-TT typhoid conjugate vaccine; TCV)
 Viポリサッカライドと破傷風トキソイドを結合されたワクチンで、商品名はTypbar-TCV(Bharat Biotech、インド)である。筋注で1回接種する。再接種の必要性については、まだ不明である。Typbar-TCVはWHOが公認した唯一の腸チフス結合型ワクチンである。インドとネパールで認可されているが、他の国でも承認が進んでいる。ヨーロッパと米国では、まだ承認されていない。TCVの効果は良好である。ネパールで20,000名の小児(生後9ヶ月〜16歳)に対して実施されたランダム化比較試験では、Typbar-TCV接種後の1年間で、培養陽性の腸チフス症例が有意に減少した(vaccine efficacy 82%; 95% CI 59-92)。
 結合型ワクチンは、免疫原性が高く、長期に免疫が維持される。インドで2歳〜45歳を対象に実施したランダム化比較試験では、Typbar-TCVを接種した場合、ポリサッカライドワクチンと比較して、セロコンバージョンの割合が高く、3−5年後に抗体価が高いことが示された。この傾向は、年少児でより明確であった。また、安全性に関しても十分であるとの報告がされている。
 Typbar-TCVは、接種可能年齢が生後6ヶ月以上である。
 

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(2) Viポリサッカライドワクチン (Vi polysaccharide vaccine) 
 Viポリサッカライド抗原が成分である。筋注で1回投与する。皮下注でも良い。引き続き予防が必要な場合には、2−3年おきに繰り返し接種する。システマティックレビューでは、接種後の有効率は、1年後69%、2年後59%、3年後50%である。
 TYPHIM Viは、接種可能年齢が2歳上である。
 
(3) 経口生ワクチン (Ty21a vaccine)
 Salmonella Typhi strain Ty21aの経口弱毒生ワクチンである。3−4回隔日投与する。引き続き予防が必要な場合には、3−5年おきに再接種する。接種後の効果は、1年後45%、2年後59%、3年後58%である。Ty21aワクチンは、Salmonella Paratyphi Bへの部分的な免疫もある。
 生ワクチンであるので、免疫不全者、妊婦には禁忌である。接種可能年齢は、6歳以上である。