小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の精巣上体炎はほとんど細菌感染ではない

小児と成人(思春期以降)では、精巣上体炎の原因が大きく異なります。
小児の精巣上体炎の原因は多くははっきりしないのですが、少なくとも細菌感染は稀であるという論文です。
 
Are antibiotics necessary for pediatric epididymitis?
Santillanes G, et al. Pediatr Emerges Care. 2011;27(3):174-8.
 
【目的】小児の精巣上体炎において、細菌が原因となる割合を明らかにし、尿培養が陽性となる因子を特定すること。
【方法】11年間の研究期間で、UCLAの小児救急外来において、急性精巣上体炎、精巣上体・精巣炎と診断された小児患者を対象とし、後方視的に診療録を解析した。
【結果】精巣上体炎と診断された患者は160名であったが、20名が除外基準に該当し、140名の患者を検討した。患者の年齢は2ヶ月〜17歳で、中央値は11歳であった。91%の患者が経験的抗菌薬投与を受けた。97名(69%)が尿培養を提出し、4名(4.1%; 95%CI 1.1-10.2%)が培養陽性であった。その4名のうち、3名は尿路感染症に対する抗菌薬に感受性が無かった。培養陽性症例と陰性症例で、患者背景・臨床症状・尿所見に差はなかった。
【結論】思春期前の小児の精巣上体炎では、尿路感染症を伴っている可能性は非常に低い。抗菌薬は、早期乳児や膿尿・細菌尿を呈した症例に限定することも可能である。どのような患者が尿培養陽性となるかは予想できず、精巣上体炎の患者は、必ず尿培養を提出するべきである。
 
 精巣上体炎は、成人では、尿路感染症の合併症として生じたり、思春期以降では淋菌やクラミジアなどの性感染症の一つと認識されています。しかし、思春期前の小児の精巣上体炎の原因はよく分かっていません。膀胱や尿道からの上行性感染、ウイルス感染、菌血症による結果として生じるなどの報告もあります。この研究では、多数の症例を集めて、「本当に精巣上体炎は細菌感染ではないのか?」を検討しています。
 結果は、ほとんどの症例で、尿培養は陰性で、陽性となった症例は、大腸菌1例、Enterococcus sp.3例でした。どうしてEnterococcusが多いのかは分かりません。しかし、筆者も述べているように、多くの精巣上体炎では細菌感染の関与が無いにも関わらず、抗菌薬が投与されており、今後は、我々の処方を見直すべきかもしれません。
 
Table 1
 
割合
発熱
12/132 (10%)
陰嚢痛・圧痛
135/138 (98%)
発赤
74/100 (74%)
腫脹
99/120 (83%)
嘔吐
13/111 (12%)
排尿困難
18/118 (15%)
膿尿
6/123 (5%)
尿培養陽性
4/97 (4%)