小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

早産児の母が大腸菌保菌者の場合、早発型敗血症(EOS)に注意が必要

 当院の小泉先生の論文です。大腸菌は、新生児(特に早産児)にとっては、非常に重篤感染症を起こします。妊婦のGBSスクリーニングの重要性は確立していますが、大腸菌保菌スクリーニングや予防方法に関しては、これまでほとんど研究がありませんでした。早産児を対象にした研究ですが、母が大腸菌を保菌していると、児の早発型敗血症発症のリスクが高まります。出産時に、大腸菌を保菌した10例中3例で、敗血症を発症しているという結果は、驚きました。
 
Prevalence and Risk Factor for Antibiotic-resistant Escherichia coli Colonization at Birth in Premature Infants A Prospective Cohort Study
Koizumi A, et al. Pediatr Infect Dis J. 2020;39(6):546-552.
 
背景:Escherichia coli(大腸菌)は、新生児の早発型敗血症(early-onset sepsis; EOS)の原因となり、死亡率も高く、薬剤耐性株の割合が増加している。本研究では、早産児が出生時点でE. coliを保菌する頻度、薬剤感受性、保菌のリスク因子を検討し、分離菌の病原因子を解明した。
 
方法:2014年8月から2017年2月まで、3ヶ所のNICU前方視的にサーベイランスを行った。対象は、出生体重2000g未満または在胎週数35週未満のどちらか1項目以上を満たす児である。母と児のスクリーニングを行いE. coliの保菌の有無を確認した。パルスフィールド電気泳動を用いて、母と児の菌株の関連性を確認した。病原因子に関連する遺伝子をPCR検査で確認した。
 
結果:382名の母体から出生した421人を解析した。母のE. coli保菌率は47.6%で、うち5.9%がESBL産生菌(ESBL-E)であった。20%がアンピシリン耐性菌であった。10名(2.4%)の児がE. coliを保菌していた。ESBL-Eの保菌は3名、アンピシリン耐性菌の保菌は4名であった。内、3名がEOSを発症した。パルスフィールド電気泳動では、4名の児で母体からの垂直感染が証明された。多変量解析では、母のESBL-E保菌(OR, 19.2)、経膣分娩(OR; 9.4)が、児のE. coli保菌のリスク因子であった。児が保菌していたE. coliからは多くの病原因子が検出された。
 
結論:早産児において、出生時にE. coliを保菌していることは稀であるが、薬剤耐性菌の割合が高く、EOS発症するリスクも高い。特にESBL-E保菌している母体から出生した場合には、慎重にEOSを発症しないかを見てゆく必要がある。
 

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