小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

EBウイルスが起こす皮膚症状(前半)

EBウイルス感染としては典型的ではない皮疹の患者さんを見たのでまとめました。

Epstein-Barr virus and skin manifestations in childhood

Di Lernia V, et al. Int J Dermatol. 2013;52:1177-84

EBVは、ヒトのB細胞に感染するヘルペスウイルス属のウイルスである。先進国での罹患率は小児で60−80%、若年成人で95%と非常に高い。最もよく見られる皮疹は、伝染性単核症(IM)に伴う皮疹である。免疫正常者の場合には、他にもGianotti-Crosti症候群(GCS)、多形滲出性紅斑(EM)、急性外陰部潰瘍(AGU)が知られている。免疫不全者では、口腔毛状白板症oral hairy leukoplakia (OHL)とlリンパ球系腫瘍が知られる。最近の研究では、種痘様水疱症(HV)やdrug-induced hepyersensitivity syndrome (DHIS)もEBウイルス艦船により生じることが報告されている。
 
ウイルス学的特徴
 EBウイルスは、dssDNAウイルスでエンベロープを有する。他のヘルペス属のウイルスと異なり、EBVは、B細胞をcytopathic effectなしで変形させることができる。宿主細胞は、通常B細胞で、EBVか感染するとB細胞は不死化する。
 EBVの感染経路は、口腔咽頭である。EBVが粘膜上皮を通過して、扁桃やアデノイドのB細胞に感染する。30−50日間の潜伏期間を経て、ウイルスが増殖し、リンパ流を通じて、全身に播種する。
 EBVの初感染では、CD8陽性T細胞による獲得免疫の反応を強く刺激する。同時に、自然免疫も稼働する。EBVはToll-like receptor (TLR)を活性化し、自然免疫反応を促進する。
 
皮膚科学的特徴
 EBVに小児早期に感染した場合には、無症状か症状は極めて軽い。しかし、思春期以降に感染すると、IMの症状を呈する。米国では、年間の発生数は人口10万人あたり45.2例である。IMの症状は、ウイルスが活動的に増殖するために起こる。自然治癒する疾患であるが、完全な回復には数週間を要する。典型的な症状は、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、倦怠感である。CD8陽性T細胞がEBVの蛋白に直接働き、症状が起きると考えられる。IMの皮疹は、紅斑、斑状丘疹で、最初は体幹と上肢に見られ、その後、顔面と前腕に広がる。長くて1週間持続する。皮疹は、麻疹様、蕁麻疹様、猩紅熱様、水疱、痒疹などのパターンがある。眼瞼の点状出血、眼瞼浮腫、軟口蓋と硬口蓋の境界域の粘膜出血なども知られる。ペニシリン(特にアモキシシリンとアンピシリン)を投与した時に、皮膚の過敏反応が生じることがある。通常、抗菌薬開始から7−10日目頃に生じる。猩紅熱様の斑状の皮疹であり、伸側と外から圧がかかる部分に多く、体幹や四肢で皮疹は癒合する。正確なメカニズムは分かっていないが、ウイルス感染中に、薬剤やその代謝物への反応が増強された結果と考えられている。
 
全身症状と合併症
 IMは自然治癒する疾患であるが、時に重篤な合併症を生じる。軽度の急性肝炎はよく知られている。黄疸を呈することは少ないが、10%弱の患者に認める。同時に生じている、溶血性貧血を反映している可能性もある。脾腫は50%以上の患者で認め、肝腫大も稀ではない。脾破裂は、稀であるが致死的な合併症である。EBV脳炎もまれな合併症であるが、小児で報告されている。若年成人では、気道狭窄も報告がある。EBVは、血小板減少性紫斑病の原因にもなりうる。
 
IMの検査診断
 血液検査では、末梢血中に異型リンパ球が増加する。IMの診断は、通常は血清診断である。Monospot heterophile抗体価を測定する。潜伏期間中や発症早期には、抗体が陰性の可能性もある。トキソプラズマ、バベシア、マラリア、風疹、白血病、リンパ腫などの疾患で、抗体が偽陽性になることもある。VCA、early antigen、EB nuclear antigen Aなどの抗体価を測定し、現在の感染、直近の感染、感染既往を判断する。VCA-IgMとVCA-IgGは、感度・特異度とも良好で、EBV初感染の時期に上昇する。しかし、乳児では抗体価の上昇は乏しいことがある。その時には、VCA IgGが陽転したことで感染の有無を判断する。VCA IgGとEB nuclear antigen A IgGは初感染後陽性が持続する。early antigen抗体は、通常は感染後2年までは陽性となる。VCA IgM/IgG, early antigen, EB nuclear antigen Aが共に陽性の場合には、初感染を遅いタイミングで検査したか、再活性化を考える。他の検査としては、EBV-DNAがある。これは、免疫不全者では有効である。IMの典型的な症状を示す患者の内、約10%は血液検査でEBV感染が証明できない。多くの場合には、サイトメガロウイルス、HHV-6、トキソプラズマ感染などが原因となっている。
 
口腔毛状白板症 oral hairy leukoplakia:OHL
 OHLは、EBVが口腔内粘膜(特に舌)で再活性化した病態である。通常はHIV感染者などの免疫不全者で見られる。HIV患者では、最も多い口腔内病変の一つである。小児では稀である。OHL発症のリスクは、HIVウイルス量が高いこと、CD4陽性細胞が低値であることである。OHLを発症するリスクとなるのは、化学療法、固形臓器移植、血液悪性腫瘍である。EBV特異的な細胞傷害性T細胞が低下し、血液中のEBV感染B細胞の増加が認められる。
 臨床症状は、舌の片側あるいは両側に見られる無症状の白苔である。舌の側面、背面、口腔粘膜、歯茎にも見られる事がある。形態は滑らかで平坦なこともあるし、不整でデコボコしていることもある。白苔は、舌圧子で除去できない。周囲は発赤や浮腫を伴う。通常は、無症状であるが、時に軽度の痛み、感覚異常、味覚変化がある。鑑別診断は、特発性白板症、喫煙によるケラト−シス、カンジダ症などである。局所レチノイド療法、凍結療法、外科的摘出などの治療選択肢がある。HIV感染がある場合には、ARTを開始して、改善する傾向がある。
 
Gianotti-Crosti症候群
 GCSは、小児の四肢に見られる皮疹で、急性に発症し、全身のリンパ節腫脹を伴う。この症候群の特徴は、同じ形の丘疹が見られることである。GCSは、特定のウイルスに対する非特異的な皮膚反応と考えられている。EBVは、GCSに関連することが最も多いウイルスの一つと考えられ、初感染でも再活性化でもGCSを発症することがある。他には、B型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルスアデノウイルス、コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルス、ポックスウイルス、パルボウイルスB19、HHV-6などの感染と関連がある。
 診断は、臨床症状に基づく。2−6歳の小児に急性に発症する。発熱、上気道症状、腹部症状などが皮疹の前に前駆症状として見られることがある。丘疹は、顔面と四肢に認められ、体幹には見られない。治療は、対象療法のみであり、自然治癒する。

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外陰部潰瘍(Lipschütz潰瘍)AGU
 性的接触と関連しない外陰部潰瘍は、Lipschütz潰瘍として知られている。思春期前・思春期の女児に大きなアフタ潰瘍が認められる。EBV感染の他にも、サイトメガロウイルスサルモネラトキソプラズマ感染との関連も報告されている。性的な接触とは関係なく発症し、EBVが尿中に排泄され、外陰部に感染するものと推測されている。IMの症状が認められる時期や、回復後に潰瘍を発症することがある。EBVが全身に播種することによって発症する可能性もある。AGUの前駆症状として、発熱、筋肉痛、咽頭炎、頭痛などがある。治療は、対症療法である。