小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Autoimmune lymphoproliferative syndrome(ALPS)のまとめ

血球減少(溶血性貧血や血小板減少性紫斑病)にリンパ節腫脹・肝脾腫を合併している場合には、ALPSの可能性を考慮する必要があります。リンパ節腫脹で紹介される患者さんも多いので、疾患についてまとめました。
 
Autoimmune lymphoproliferative syndrome (ALPS)
 
病態・原因
Autoimmune lymphoproliferative syndrome (ALPS)は、リンパ球のアポトーシスの過程の制御ができないために、免疫系の制御異常を来す疾患である。リンパ増殖性疾患による、リンパ節腫脹、肝脾腫をきたし、リンパ腫のリスクが増加するとともに、造血細胞系の自己免疫疾患を発症する。
 
ALPS-FASの臨床症状
 ALPSの症状は、通常生後1年以内に見られる。最も頻度の高い症状は、リンパ組織の増大(リンパ節腫脹、肝脾腫)、自己免疫疾患(血小板減少と溶血性貧血を伴う血球減少)、リンパ腫である。
 フランスと米国のコホート研究では、発症は全身性リンパ節腫脹と肝脾腫が最も多く、中央値は2.3−3.0歳であった。それ以降の発症では、自己免疫疾患によって診断されることが多い。
 ALPSの原因遺伝子は、アポトーシスに関連する抗原であるALPS-FASをコードするFAS遺伝子の変異が最多である。
 
 ・慢性の非腫瘍性リンパ節腫脹
 リンパ球がアポトーシスを介して消滅しないため、リンパ節が慢性的に腫脹し、肝脾腫も見られる。脾腫だけの患者もいる。先述のコホートで、リンパ節腫脹は85−97%の患者に認められた。脾腫は95%の患者に認めた。
 リンパ節腫脹は10歳以降では目立たなくなるが、脾腫は残り続ける。長期フォローアップでも、リンパ節腫脹が改善しても、末梢血のリンパ球が増加している状態は変わらない。リンパ節腫脹の程度は、改善と悪化を繰り返す。リンパ増殖性疾患の予後は、大まかには良好であるが、一部の患者は治療のために長期に免疫抑制薬を使用する。
 
・自己免疫疾患
 ALPSの患者では、自己免疫疾患はよく見られ、特に男性で頻度が高い。先述のコホートでも、自己免疫疾患を発症するのは、発症から2−3年後であることが多い。多くの患者が自己免疫疾患を発症する以前に自己抗体が陽性となる。自己免疫疾患で、最も多いのが、クームス陽性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と、血小板減少性紫斑病(ITP)である。自己免疫性好中球減少は比較的少ない。自己免疫性の血球減少は52%の症例で認められう。自己免疫疾患の発症リスクは61%であった。血球減少を混合すると、Evans症候群と言われる。はっきりとリンパ増殖性疾患が無くとも、Evans症候群があり、特にdouble-negative T cellが増加していたら、ALPSを考慮する必要がある。
 脾機能亢進によおる血球減少との区別が難しいが、血液像で溶血所見があるか、自己抗体の有無、網状赤血球を計測し、鑑別を行う。
 他の自己免疫疾患としては、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、ギラン・バレー症候群ぶどう膜炎虹彩炎などがある。内分泌疾患の合併もあり得る。
 
・リンパ腫
 ALPS-FAS患者は、ホジキンリンパ腫も非ホジキンリンパ腫も発症リスクが高い。どの年齢でも発症しうるが、比較的稀である。典型的にはB細胞性リンパ腫が多いが、T細胞性もあり得る。EBV関連のリンパ腫はすくない。リンパ腫発症リスクは、フランスのコホートで30歳までに15%である。米国では。150名中18例がリンパ腫を発症した。男女比は3.5:1となり、男児に多い。発症率は、一般人口と比較し、ホジキンリンパ腫で149倍、非ホジキンリンパ腫で61倍である。
 もともとリンパ腫があるので、腫瘍性のリンパ節を診断することは難しく、B症状(発熱、盗汗、掻痒感、体重減少)などを参考にする。PET検査が有効なこともある。患者や家族に、リンパ腫の症状について教育をしておき、定期的にフォローを行うことも重要である。リンパ腫以外の悪性腫瘍に関しては、今の所、増加することはない。
 
・その他の症状
 皮疹(蕁麻疹や湿疹)、血管炎、脂肪織炎、関節炎、腸炎、口腔内潰瘍などが報告されている。
 
他のALPSジェノタイプの症状
 ALPS-FASLGは、典型的なALPSとは異なった病像を呈する。ALPS-FASLGは、常染色体劣性遺伝である。アポトーシスは正常であるが、double-negative T (DNT) cellが増加する。
 ALPS-CASP10は、常染色体優性遺伝である。患者は様々な自己免疫疾患と炎症性疾患を呈する。DNT cellは増加する。
 
検査所見
 ALPSの診断に有用な検査所見
・αβ double-negative T (DNT) cellの増加(末梢血と組織)
・血中IL-10の増加
・血中ビタミンB12の増加
・in vitroでのFas-mediatedアポトーシスの欠損
 DNT cellは、CD3を発現するが、CD4とCD8の両者を欠損したT細胞である。通常では1%未満であるが、ALPS-CASP10患者では2−23%に増加する。
 ALPSではリンパ球増殖により、以下の細胞も増加する。γδDNT cell、CD8+CD57+ T cell、HLA-DR+ T cell、CD5+CD27- B cell。
 他の特徴として、血清IgG、IgA、IgEが増加し、IgMは変わらないか低下する。レパートリーの豊富な自己抗体が陽性となり、典型的には、Cooms試験陽性、抗血小板抗体、抗好中球抗体、抗リン脂質抗体、抗核抗体、リウマチ因子が陽性となる。
 
 
診断
 臨床症状と検査所見を総合して診断する。遺伝子診断として、FAS, FASLG, CASP10が利用可能である。
 診断基準が2010年に作成された。確定診断は、2 required + 1 primary criteriaである。疑い診断は、2 required + 1 secondary criteriaである。
Required criteria
・6ヶ月以上慢性的に、非腫瘍性・非感染性のリンパ節腫脹または脾腫がある。
・DNT cellが2%以上または68 cell/microL以上認める
Primary accessory criteria
・リンパ球のアポトーシスの欠損
FAS, FASLG, CASP10の欠損
Secondary accessory criteria
血漿中のsoluble Fas ligand、IL10、ビタアミンB12、IL-18の上昇
・典型的な免疫組織学的な所見
・自己免疫性の血球減少と、ポリクローナルなIgG上昇
・ALPSの家族歴
 
診断アルゴリズムは以下
 
鑑別診断
 ウイルス感染や免疫不全症候群、リンパ腫が鑑別診断になる。EBV感染症は、しばしばALPSと混同される。免疫不全症候群ではCVID、高IgM症候群、XLP、Wiskott-Aldrich症候群、CTLA-4 haploinsufficiency with autoimmune infiltration (CHAI) disease, STAT3 mutation, LRBA deficiencyなどが鑑別診断。
 
治療
 原疾患の症状を治療する、原疾患とそれに対する治療によって生じる合併症を予防し治療する、根治的な治療の3つが重要な観点である。
 
 原疾患の症状に対する治療
 リンパ節腫脹・自己免疫性疾患のコントロールと、リンパ腫の治療を行う。前者については、ランダム化比較試験は無い。そのため、患者ごとに治療方針を考える。一度、免疫抑制薬や免疫調整薬を投与すると、中断するのが困難であり、副作用の問題も考慮に入れる。具体的には、ステロイドによる肥満、成長障害、高血圧、白内障、骨減少書など。シクロスポリンやタクロリムスなどのT細胞性免疫を抑制する事による、重篤感染症や腎機能障害などである。
 筆者らは、重度のリンパ節腫脹の場合には、免疫抑制薬の使用を推奨する。使用する薬剤は、ステロイド、シクロスポリン、シロリムス、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルである。免疫抑制薬の使用は、副作用とのバランスで考えるべきである。自己免疫疾患がない場合には、免疫抑制薬の使用は行わないことも選択肢。
 溶血性貧血や血小板減少などの自己免疫性疾患の症状があれば、治療を開始したり、すでに開始している治療を強化する。使用する薬剤は上記と同じ。他に治療抵抗性の血球減少症ではリツキシマブを行った成功例もある。IVIGも有効な事がある。
 筆者らのアプローチは、複数の薬剤を併用することである。重症度に応じて、高用量のIVIG、ステロイド、T細胞免疫抑制薬(ミコフェノール酸)を開始する。効果不十分な場合には、ミコフェノール酸をシロリムスやタクロリムスに変更する。IVIGで寛解に達しない場合には、リツキシマブを使用する。
 
 根治的な治療
 造血幹細胞移植がALPSの唯一の根治的治療である。骨髄非破壊的前処置により合併症を発症を抑制できる。造血幹細胞移植の適応は、リンパ腫の発症、重篤で治療抵抗性の血球減少、長期の免疫抑制薬投与による免疫不全状態、診断時の病型が重篤、複数回の重篤感染症である。