外陰部潰瘍は、単純ヘルペスウイルス(HSV-1,2)が原因として有名です。他に性感染症(STI)として、外陰部潰瘍を生じる感染症は、梅毒、クラミジア・トラコマチス、Haemophilus ducreyi, Klebsiella granulomatisなどが知られています。
一方で、STIと関連のない外陰部潰瘍の原因としては、下記のものがあります。(UpToDateより)
しかし、若年女性に上記のような原因がなく発症する急性外陰潰瘍の原因として、Lipschütz ulcerという病態があります。直近のウイルス感染症などが原因となる免疫反応と考えられているようですが、はっきりした原因は分かっていません。まれな病気ですが、感染症科として、鑑別を挙げられたほうが良いので、まとめました。
要点
・Lipschütz ulcerは、STIと関係ない特発性の外陰部潰瘍である。
・疼痛を伴う、多発潰瘍で、再発することもある。
・一部にウイルス感染が関与している可能性がある。
Lipschütz ulcers: should we rethink this? An analysis of 33 cases.
目的:Lipschütz ulcer(LU)の症状と特徴を記述し、診断の標準的なプロトコールの有用性を評価すること。
研究デザイン:5年間に当院(ポルトガル)のクリニックでLUと診断された全症例を後方視的に解析した。
結果:外陰部潰瘍患者110名のうち、33例(30.0%)がLUと診断された。平均年齢は29.1±15.14歳(範囲:10~79歳)であった。9名(27.3%)は35歳以上であった。多数は性交渉経験者(28人、84.8%)であった。10例(30.3%)は,過去に同様のエピソードを1回以上経験していた。25人(75.7%)は、診断される前の週に婦人科系以外の症状を経験していた。潰瘍の部位は、膣前庭(19例、57.6%)、大陰唇(10例、30.3%)に最も多くみられた。左側の孤立性病変はまれであった(3例、9.1%)。潰瘍の多くは多発性(22例、66.7%)であった。治癒までの平均日数は15.6±6.20日であった。感染症が原因の可能性として考えられる症例は、9例(27.3%)。CMV(3例)、マイコプラズマ(3例)、EBV(2例)、PVB19(1例)であった。診断プロトコールには、生検、血球分画、CRP、肝酵素が含まれていなかったので、診断の見落としがあった可能性がある。
結論:LUはどの年齢層の女性にも認められ、多くは性交渉歴のある女性である。ほとんどの場合、婦人科と関連のない症状が先行する。再発が多い。ほとんどの病変は前庭と大陰唇に発生するが、まれに左側にも発生することがある。ウイルスが関連していることも多いが、マイコプラズマの血清検査も考慮すべきである。標準的なプロトコールでは、性感染症を効果的に除外することができ、約1/3の症例で診断が可能である。
Lipschütz ulcerの症状
症状
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症例数
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割合(%)
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無症状
|
1
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3.0
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疼痛
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28
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84.8
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排尿困難
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13
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39.3
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掻痒感・灼熱感
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14
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42.4
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異常帯下
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5
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15.2
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婦人科以外の症状
症状
|
症例数
|
割合(%)
|
嚥下痛
|
13
|
39.3
|
筋肉痛
|
6
|
18.2
|
下痢
|
1
|
3.0
|
気道感染症状
|
5
|
15.2
|
4
|
12.1
|
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発熱
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11
|
33.3
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頸部リンパ節腫脹
|
3
|
9.1
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原因病原体の検索
原因
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症例数
|
割合(%)
|
特発性
|
24
|
72.7
|
3
|
9.1
|
|
3
|
9.1
|
|
2
|
6.1
|
|
パルボウイルスB19
|
1
|
3.0
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