小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の潜在性結核感染症(Uptodateのまとめ)

 小児の潜在性結核感染症(LTBI)は、直近で感染したパターンが多く、何十年も前に感染していることが多い成人とは対照的である。2−4歳未満の小児は、播種性結核結核髄膜炎などに進展するリスクが高い。小児において活動性結核は、ほとんどが感染後2−12ヶ月以内に発症する。
 
LTBIの診断
誰を検査するか?
 LTBIの評価を行う対象の小児は、特定のリスクが高いグループと重症化しやすいグループになる。治療により利益を得られる小児のみが対象となるべきであり、もし検査する場合には、陽性なら治療を行うことになる。下記のスクリーニング用紙を用いることもできる。小児において、結核感染の最大のリスクは、活動性結核に罹患している成人との接触である。それは、家庭内での接触のこともあるし、結核流行地に滞在ということもある。結核菌を排菌している小児から他の小児への感染もあり得る。もし、ツベルクリン判定(TST)陽性やIGRA要請の小児を見つけた場合には、家庭内の他の児への感染と感染経路の確定を急ぐべきである。
 
Pediatrics. 2004; 114:1175.
 
 LTBIは、これまでに結核に感染していることが判明したが、活動性結核ではない状態である。結核感染の既往があることを証明する検査は、TSTとIGRAである。これらの検査は、抗酸菌の抗原蛋白に対するIV型(遅延型)アレルギーが成立しているかをみるための検査である。検査を行う上で年齢の下限はない。しかし、生後3ヶ月未満ではTSTもIGRAも信頼できない
 
☆活動性結核との接触歴がある時の対応(日本の結核接触者健診に当たる)
 もし、活動性結核患者との接触があれば、病歴聴取・身体診察・胸部レントゲン・TSTまたはIGRAを実施する。評価は、接触があった後なるべく早く1回目を実施する。もし、最初のTSTとIGRAが陰性なら、8−12週間後に2回目を行う。もしTSTで5mm以上の硬結がある or IGRAが陽性で、かつ活動性結核の所見がなければ、LTBIとして治療を開始する。(注:日本では、結核接触者健診がこれだけ早いタイミングで行われることはないので、あまり実際的ではないように思われる。)
<5歳未満>
 5歳未満の結核接触者は、TSTとIGRAの結果に関わらず、活動性結核の所見がなければ、LTBIとして開始するべきである。もし、検査が陰性であっても、window prophylaxisとして治療を開始する。小児の結核に対する細胞性免疫は低く、活動性結核へ進展するリスクが高いためである。(12ヶ月未満では40%、1−2歳では25%)。初回のTSTやIGRA陰性のケースでは、8−12週間後に、再検査を行うべきである。再検査も陰性であれば、治療の中止も検討する。もし、偽陰性(免疫不全、栄養不足、若年)が疑われる場合には、LTBIとしての加療を継続する。
(注:日本では様々なケースがあると思われるが、個人的な経験では、保健所と相談し、曝露が濃厚・対象が乳児の場合には結果に関わらず治療する。ある程度年長児や曝露状況からして感染が成立している可能性が低ければ、治療は開始しないと思われる。)
 
<5歳以上>
 免疫正常の場合に、初回のTSTまたはIGRAが陰性であれば、治療の開始は待つことができる。2回目の検査は通常8−12週間後に実施する。再検査で陰性の場合には、治療は必要ない。もし再検査陽性なら、LTBIとしての治療を完遂する。
(注:日本では3ヶ月以内に1回目の検査を行い、そこで陰性判定されたら治療しない。2回目は特別な事情がない限りは行っていない)
 
<免疫不全の場合>
 固形腫瘍、血液腫瘍患者は、TB感染の有無について検査を行うことは十分正当化される。南アフリカで実施されたメタアナリシスでは、これらの悪性腫瘍患者では結核のリスクが高い(incidence rate raio 16.8)ことが判明している。他に、免疫抑制剤投与などの免疫抑制中は、TB感染の評価を行うべきである。HIV患者は、毎年TBのスクリーニングを行う。スクリーニングは、生後3−12ヶ月の間に行い、HIV感染が診断された時に行う。
 
検査の方法
 2歳以上に関しては、IGRAがより好んで用いられている。USの3500名の小児を対象に行なった研究では(殆どが海外で出生した2歳以上の小児)、IGRAはTSTよりも、特異度が高く、陰性適中率も高かった。特異度は、TST 73%, QFT-GIT 90%, T-SPOT 93%であった。陽性適中率はTSTもIGRAも十分ではない。陽性であれば、結核感染(LTBIか活動性結核)と考えることができるが、陰性の場合に、感染を除外してよいかは、臨床状況に応じて判断が必要である。特に、免疫不全がある場合には、IGRAの判断は慎重に行う必要がある。
 2歳未満:TSTを実施する→陽性ならLTBIとして治療。陰性ならLTBIの確率は下がるが、完全には否定できないので、各症例ごとに検討する。
 2歳以上:IGRAを実施する。陽性なら治療、陰性ならLTBIの確率は下がるが完全には否定できないので、各症例ごとに検討する。intermediateなら、IGRAを再検査する。陽性・陰性に応じて、上記の対応をする。再度intermediateになった場合、BCG接種あれば陽性として対応する。BCG接種していない時には、TSTを実施する。その結果で、判断する。
 
 
誰を治療するか?
 HIV感染陰性の小児の場合、上記のようなアプローチでLTBIの診断がついた場合には、治療することが合理的である。HIV感染陽性の場合には、活動性結核への曝露歴ある時・過去にTb感染がある可能性があったり十分な治療が行われていないと考えられる時・TSTまたはIGRA陽性のとき・検査結果に関係なく結核感染の多い環境に住んでいる時に治療を行う。
 治療する時には、活動性結核を除外することが必要である。また、ベースラインの肝機能を一部の症例で確認する。対象は、栄養不足、肝疾患、肥満、HIV感染、肝障害の可能性ある薬剤を使用している時。そうでない場合には、ベースで肝機能の確認はルーチンでは不要である。
 治療レジメンは、リファンピシン4ヶ月(4R)、イソニアジド+リファペンチン週1回3ヶ月(3HP)、イソニアジド9ヶ月(9H)、イソニアジド+リファンピシン3ヶ月(3HR)。
筆者らは、2歳以上は、4Rか3HPを選択する。9Hと3HRも選択肢である。2歳未満は、4Rを選択する。9Hと3HRも選択肢である。