小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

自衛隊中央病院でのCOVID-19対応の詳細

自衛隊中央病院のHPに掲載されたCOVID-19対応です。
これまでに日本語で出た報告の中で、最も素晴らしいケースシリーズでは無いかと思います。必読です。
 
 自衛隊中央病院では、ダイアモンド・プリンセス号船内感染症例と都内で発症した症例の112例を受け入れた。
平均年齢は68歳。国籍は17カ国(と地域)。乗務員は30−50代が多く、乗客が70代が多かった。48%に基礎疾患があった。
酸素投与が必要となった症例は13.5%であった。そのうち半数がNHFやNPPVなどの高流量酸素が必要となった。気管内挿管し人工呼吸器管理をしたのは1例のみであった。無症状であった症例は31.7%であった。

f:id:PedsID:20200321092829p:plain

 
 無症状の感染者でもCTで異常陰影が観察されるケースがあった。CTで異常陰影を認めた患者の2/3がそのまま症状が悪化すること無く経過し、1/3はあ症状が増悪した。このようなsilent pneumoniaが、明らかな肺炎に進行するときには、発熱や咳嗽の増悪が出現するのではなく、高齢者ではSpO2低下、若年者では頻呼吸が出現することが多かった。重症化するのは基礎疾患がある患者が多いものの、基礎疾患のない若年者が重症化することもあり、その背景要因は不明である。
 PCRよりもCTの方が感度が高いという報告もあり、実際にPCRの感度は70%程度と考えられた。自衛隊中央病院では、一般患者との動線を区別するため、COVID-19患者は単純レントゲン撮影を行わず、CT検査を行った。
 
以下は原文で重要なところを太字にしましたが、重要と思われるところです。
・日頃からの受け入れ訓練が大切
感染症を見慣れていないスタッフのために、着脱訓練やゾーニングを徹底して教育する
・軽症者は陰圧機能のない病室、重症例は陰圧室(エアロゾール発生を伴う状況が多いため)
・標準予防策の徹底に加えて、接触飛沫感染予防策を実施。
 N95マスク+アイソレーションガウン+アイガードで対応
 
結果として、院内感染なし。
 
当院は、これまで第一種感染症指定医療機関として平素から感染症患者受入れ訓練を実施するとともに、防衛省医療機関として首都直下型地震等を想定した大量傷者受入れ訓練を実施してきた。今回の100例を超える感染症患者の受入れにおいては、この2つの訓練のノウハウを活用し対応した。また、平素、感染症診療に携わっていないスタッフの動員に対しては、病院ICT注3スタッフのみならず全国の自衛隊病院感染管理認定看護師の協力を得て、N95マスクフィットテストやPPE着脱訓練を行い、ゾーニング要領を徹底して感染管理の質の維持に努めた。ダイヤモンドプリンセス号からの患者は全員退院したが、スタッフの発症あるいはPCR検査陽性は確認されなかった。この事実からは感染管理の重要性が明らかであるとともに、COVID-19確定症例とわかって対応していれば院内感染は起こりにくい可能性も示唆される。現在までに報告されている院内感染事例はCOVID-19の診断がなされる前に生起していることが多く、院内感染を防ぐためにはいかに疑い、診断するかが大きく関わってくると考えられる。なお、当院では多数の患者を受け入れたため、陰圧室は不足し、患者の多くは陰圧機能のない一般病室に収容した。このため、ウイルス量が多く、ネーザルハイフローや人工呼吸器などのエアロゾル発生機器・手技を多く必要とするであろう重症例から陰圧室を使用し、ゾーニングを徹底した。標準予防策に加えて接触感染予防策、飛沫感染予防策を実施し、マスクは原則N95マスクを使用した。アイガードの徹底に加えて脱衣に熟練を要するいわゆるワンピース型PPEは用いず、アイソレーションガウン使用を標準とした。さらに挿管時にはPAPRも装着した。
 
 今回クルーズ船の乗員乗客として、日本も含めて計17の国と地域という多様な国籍の患者を短期間に多数受け入れた。このため、患者とのコミュニケーション及び各国駐日大使館との調整・病状説明等に膨大な通訳所要が発生し、全国の自衛隊部隊等から通訳の支援を受け対応した。入院症例は軽症者が多かったため、本国との連絡手段を確保するとともに母国語で情報収集したいとの要望に応える必要がありwifiルーターを設置した。病院食に対しても様々な要望があり、献立を工夫する等、患者サービスの向上に努めた。また、PCR検査の実施においては、提出から結果の確認まで最長1週間待たされる等、困難を極めた。そのような折、国立感染症研究所及び陸上自衛隊対特殊武器衛生隊にPCR検査の面で非常に大きな助力をいただいた。今回の受入れを乗り切ることができた要因の一つであると考えている