小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

顔面神経麻痺を伴う外耳道炎は「悪性外耳道炎」を疑う

悪性外耳道炎のポイント
・起炎菌は、ほとんど緑膿菌
・高齢DM患者に多いが、免疫不全の小児でも起こしうる
・進行すると、顔面神経麻痺、頭蓋底骨髄炎を起こすので、早期診断と治療が重要
 
悪性外耳道炎Uptodateまとめ
 
はじめに
 悪性外耳道炎は、外耳道と頭蓋底の侵襲性感染であり、糖尿病の高齢者に典型的には発症する。HIV感染者やその他の免疫不全者に見られる。Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)がほとんど全ての症例の原因菌である。経口および局所投与のキノロン使用が増大し、キノロン耐性緑膿菌が問題になる。
 
疫学
 高齢の糖尿病罹患者は、悪性外耳道炎のリスクが極めて高い。90%以上の患者に耐糖能異常があったとの報告がある。原因としては、外耳道などの微小血管障害が起きていること、耳垢のpHが高いことなどが考えられているが、はっきりしたことは分かっていない。小児ではこれまで20例も症例報告がない。小児例は、悪性腫瘍や栄養失調などの免疫不全がある患者が多い。小児例では菌血症を来す事が多い。
 
微生物学的特徴
 悪性外耳道炎の95%異常は緑膿菌が関与している。複数菌が検出される場合には、緑膿菌と皮膚常在菌という組み合わせが多い。まれに、アスペルギルス、黄色ブドウ球菌、プロテウス、クレブシエラ、Burkholderia cepacia、カンジダなどによる悪性外耳道炎の報告もある。HIV患者でA. fumigatusが多いという報告もある。
 緑膿菌は、通常、外耳道内の常在細菌ではないので、緑膿菌が検出されれば、原因菌であることを示唆する。耳垢水など耳に水を入れる処置を行った後に、悪性外耳道炎の発声が多いとする論文もある。
 
臨床症状
 典型的な症例では、著明な耳痛と耳漏が認められる。通常の外耳道炎の治療では改善が得られない。耳痛は、夜に強くなり、顎関節まで疼痛が広がり、咀嚼時の疼痛を生じる。
 外耳道内には、Saantorini's fissureと言われる骨と軟骨の移行部の下壁に肉芽形成が見られる。免疫不全者や小児ではこの所見がないこともある。
 さらに進行すると、頭蓋底と顎関節の骨髄炎に進展する。脳神経麻痺を生じることがある。10例の報告では、6例が顔面神経麻痺のみ、4例がVI, VII, IX, X, XI, XII脳神経麻痺の組み合わせで脳神経麻痺を生じた。小児では、顔面神経麻痺を生じる可能性がより高い。稀であるが、致死的な合併症として、髄膜炎、脳膿瘍、静脈洞血栓症がある。
 
診断
 明確な診断基準はなく、臨床症状、検査所見、画像所見を総合して診断する。診断が遅れると予後が悪いが、初診時に重症、脳神経麻痺の合併、真菌培養陽性、再発例、画像的に浸潤所見ありでは、予後が悪い。
 血液検査:赤沈やCRPが上昇する。非特異的であるが、著明な上昇はこの疾患の特徴であり、疾患の活動性の評価に有用である。
 微生物学的検査:外耳道ドレナージ、肉芽組織をGram染色と培養に提出する。真菌染色と培養も必要である。免疫不全者と小児では血液培養も提出する。
 画像検査:CTとMRIは、診断とフォローアップに有効である。CTは、骨浸潤の評価に使用できる。MRIは頭蓋底の評価において、CTより優れる。また、MRIは骨浸潤の早期をCTより早く捉えることができることもある。
 
治療
 抗菌薬投与:抗緑膿菌作用のある抗菌薬投与が原則である。各施設のキノロン耐性率に応じて、抗菌薬を選択する。筆者らは、シプロフロキサシンを推奨。キノロン耐性株の場合には、ピペラシリンやピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、メロペネムなどを選択する。アミノグリコシドは耳毒性のために推奨しない。治療期間は6−8週間を推奨する。アスペルギルスが原因菌の場合には、ボリコナゾールを12週間以上投与する。代替薬はリポソーマルアムホテリシンBである。イサブコナゾールは侵襲性アスペルギルス感染症において、ボリコナゾールと非劣勢であり、選択肢の一つとなりうる。
 その他:局所の抗菌薬投与(点耳液)は、意味がない。外科的治療も、現状では意味が無いと考えられている。デブリと生検は、悪性腫瘍との鑑別のために有用である。高圧酸素療法に関しても、明らかなエビデンスはない。