小児感染症科医のお勉強ノート

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小児結核の検査について

Laboratory Diagnosis of Mycobacterium Tuberculosis Infection and Disease in Children
J Clin Microbien. 2016;54:1434-1441.
 
  小児結核の検査のレビュー記事です。
 成人では、Mycobacterium tuberculosis(結核菌)に感染しても、発症する確率は生涯を通して5−10%程度である。しかし、乳幼児の場合には、結核菌に感染し、治療を受けないと、6−9ヶ月以内に40−50%の確率で発症する。さらに、細胞性免疫不全をきたす状態(HIV感染、糖尿病、栄養不足、TNF-α阻害薬使用)があると、発症する確率は更に高くなる。
 小児では、結核は肺に感染した後に、肺門と縦隔リンパ節に進展する。リンパ節が腫大すると、気管支内腔を狭窄し、末梢に無気肺を形成したり肺実質の感染をきたす(collapse-consolidationという)。小児期の結核の特徴は胸郭内のリンパ節腫脹である。この時点で菌量は少なく、小児の結核はしばしばpaucibacillary(菌量が少ない)と呼ばれる。そのため結核菌の検出は難しく、小児結核の内、結核菌が検出されたのは40%未満であるという報告もある。残りの60%は、臨床症状、レントゲン、検査、疫学などをもとに臨床的に診断されている。
 
 結核感染の診断に使用する検査
 免疫学的に結核菌に感染した証拠があるか(germs in the body)を確認するテストは2種類ある。1つはツベルクリン反応(TST)で、もう一つがIFN-γ release assay (IGRA)である。小児でも解釈は成人と同様である。
 
ツベルクリン反応について
 ツベルクリン反応は、遅発型反応を見るもので、接種後48−72時間で判定する。時に72時間を超えて反応が強くなることがある。判定は、紅斑ではなく硬結の大きさで判定する。ツベルクリン反応陰性でも結核の除外は出来ない。結核感染している小児のうち、20%の症例は、免疫不全がなくても初回のツベルクリン反応陰性である。免疫不全があれば、陰性の割合は更に高くなる。
 ツベルクリン反応の偽陽性の原因は、非結核性抗酸菌(NTM)感染とBCG接種である。NTM感染後に、数ヶ月は交差反応が残存する。BCG接種した乳児の50%がツベルクリン反応陽性となった報告がある。5年以内に80−90%の接種者はツベルクリン反応が陰転化し、10年以上経過するとほとんどが陰性になると考えられる。しかし、BCG接種をしている国では、結核罹患率は高く、BCGを以前に接種していても、活動性結核の患者との接触歴があれば、ツベルクリン反応陽性は結核感染を示唆する事が多くなる。ツベルクリン判定は、3つのカットオフ値が使用される。
結核発症のリスクが最も高い場合には、5mm以上の硬結を陽性と判定
・その他のリスクの高い場合には、10mm以上の硬結を陽性と判定
・リスクが低い場合には、15mm以上の硬結を陽性と判定する。
 

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 IGRAについて
 IGRAは2つの方法がある。Quanti FERON-TB GoldとT-SPOT. TBである。現時点では、どちらが優れているとは言えない。IGRAは、ex vivo結核特異的抗原(BCGや大部分のNTMは有さない抗原)を用いてTリンパ球の刺激を行い、患者のTリンパ球が産生するIFN-γを測定する(QFT)か、IFN-γを産生するリンパ球の数を計測する(T-SPOT)。小児へのIGRAの使用について検討した研究では、ツベルクリン反応よりも特異度は高く、特に結核のリスクが低い臨床状況やBCG接種者について、より有用性が高かった。メタアナリシスでは、BCG接種者についてIGRAの特異度は85−95%で、ツベルクリン反応の特異度の45−60%より優れていた。免疫正常者については、IGRAもツベルクリン反応も感度はそれほど変わらない。しかし、免疫不全者や重症結核感染では、ツベルクリン反応と同様にIGRAも感度が低下する。特に5歳未満において、IGRAのデータは少なく、この年齢層では使用しにくい。一方で、ツベルクリン反応は4−6か月児でも実施できる。
 
検体の選択・採取・搬送
 結核微生物学敵診断に最も影響を与える重要なパラメーターは、検体の質である。多くの検体の採取が試みられてきた。最も古典的な検体は、胃液(gastric aspirate; GA)である。早朝空腹時に採取する。5−10mlの検体を3日間連続で採取する。4時間以内に処理できない場合には、炭酸ナトリウムで中和する。しかし、最近の研究では中和する処理は不要との見解もある。また、生後1ヶ月から誘発して採取した喀痰も、3日間連続採取の胃液と結核菌の検出率は変わらなかった。
 髄液(CSF)は、結核髄膜炎が疑われる時、先天性・新生児結核、乳児の播種性結核では検査が必要である。(注意:新生児では全例、乳児でも多くの症例で採取する)
 血液や骨髄穿刺は、感度が低いものの、もし陽性になった場合には播種性結核と診断できる。採取した検体は迅速に搬送し、検査を開始する。もし、搬送が1時間以上遅れる場合には、4℃で保存する。
 
培養方法
 WHOは、培養検査を結核診断のゴールドスタンダードとしている。培養陽性となると、診断が確定するだけではなく、薬剤感受性試験が実施できる。しかし、小児では結核を発症しても、培養陽性となる確率は成人より低い。培養の感度が低く、発症した場合に、急速に悪化する小児の特性を考えると、微生物学的に結核が診断される前に、治療を開始することが必要である。直接塗抹(胃液または喀痰)が陽性となる確率は小児では20%以下である。
培養は液体培地を使用したほうが、小川培地より感度が良い。
胃液が最も感度が良い。結核の有病率が低い地域では、2日目、3日目の胃液を検査することで、診断率は25%、8%ずつ上昇する。
 
 
 1995年に結核菌の拡散増幅検査法(AMTD)がFDAで認可された。AMTDは、培養陽性結核症例の全例で陽性となり、さらに13例の培養陰性肺結核症例で陽性となったという報告がある。感度は100%、特異度は85%であった。
 Xpert MTB/RIFも、HIV陽性または多剤耐性結核疑いの小児の結核診断での使用に推奨される。この検査は、rpoB遺伝子を検出し、リファンピシン耐性の有無を確認できる。感度は98%、特異度は99%との報告がある。塗抹陰性結核については、感度は68%程度である。メタアナリシスでは、感度は62%、特異度99%であった。