小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

アライグマを飼育している人の頭痛・視力低下には要注意

マニアックな話題で恐縮です。
アライグマに寄生するアライグマ回虫がヒトに感染すると幼虫移行症を起こします。
中枢神経に達すると、好酸球髄膜炎を引き起こし、眼に達すると視神経炎(DUSN)を引き起こします。どちらも致死率や失明率が高い合併症です。
アライグマが野生化したり、ペットとして飼われるケースが増えており、注意する必要があります。
視神経炎のレビュー記事があったのでまとめました。
(眼科用語は詳しくないので間違っているかもしれません。)
 
 
Diffuse unilateral subacute neuroretinitis: review article
J Ophthalmic Inflame Infect. 2019;9(1):23
 
 Diffuse unilateral subacute neuroretinitis (DUSN)(びまん性片側性亜急性視神経炎)は、視力障害を起こしうる感染症である。治療されないと、炎症が持続し、網膜血管の狭小化、視神経乳頭萎縮などを来す。1950年代に、寄生虫が原因であることが報告された。
 網膜下に虫体が認められる例は半分以下であるが、患者の大部分は20歳以下である。早期の発見による、抗寄生虫薬治療、光凝固療法により、視力予後を改善することができる。
 
原因と疫学
 Toxocara canis(イヌ回虫), Baylisascaris procyonis(アライグマ回虫), Ancylostoma caninum(イヌ鉤虫)などが原因となる。全2者の頻度が高い。血清学的検査や便検査で判明しないことも多い。
 
病態生理
 DSUNでは、虫体が網膜下に入り、網膜と網膜下色素上皮に炎症と変性が起きる。好酸球などの細胞が浸潤して、神経節細胞が失われる。菌体から出る毒素成分が、網膜にも網膜外にもダメージを与える。結果として、血管の狭小化、変性、視神経乳頭萎縮が見られる。
 
臨床症状
 多くは健康な小児や若年成人に発症する。病期により、症状が異なる。
 ・早期
 症状は、硝子体炎と視神経乳頭浮腫により起きる。かすかな多発性の灰白色の病変が網膜に見られる。病変は虫体が移動した部分に見られると考えられる。約半分の患者で不可逆的な視力障害を生じる。25−40%の症例で虫体を認めることができる。

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 ・後期
 進行すると、硝子体炎は軽度になり、網膜下にトンネルが認められる(Garcia徴候)。巣状あるいはびまん性に変性所見を認める。視力は非常に低下し、80%以上の症例で重度の視力障害を認める。
 
 
補助的な検査
・フルオレセイン血管造影:視神経乳頭の毛細血管からの色素の漏出を認める。
・インドシアニングリーン血管造影:早期に血流が低下し、色素が届きにくい領域を検出する。
など
 
診断
 菌体を認めたら、末梢血の好酸球数などには関わらず診断できる。虫体が認められない場合には補助的検査を追加する。
 
治療
・レーザー光凝固療法:虫体を認めたら実施し、虫の動きを止めて、炎症を抑える。
・抗寄生虫薬:高用量のアルベンダゾール(400mg)を経口投与する。明確な治療期間は決まっていないが、治療成績が良いブラジルの報告では30日間。