小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

BCGによる非結核性抗酸菌症の予防効果はかなり高い

BCGワクチンがCovid-19を予防するのでは無いかと世間では言われています。真偽のほどは、まだ分かりません。もともとは乳児の重症結核を予防するのがBCGの役割でしたが、非結核性抗酸菌症によるリンパ節炎やBuruli潰瘍の予防にも有効です。
 
Does BCG Vaccination Protect Against Nontuberculous Mycobacterial Infection? A Systematic Review and Meta-Analysis
Zimmermann P, et al. J Infect Dis. 2018;218:679.
 
 非結核性抗酸菌(NTM)は水や土などの環境中に生息する菌である。免疫正常な小児に頸部リンパ節炎や皮膚軟部組織感染症を起こすことがある。最も有名な皮膚感染症は、Buruli潰瘍である。NTMの1種であるMycobacterium ulceransの感染により慢性に進行性に皮膚病変が見られ、無治療では骨髄炎や骨破壊を起こす。NTMによる頸部リンパ節炎は、4歳未満の小児に見られることが多く、先進国で小児人口10万人あたり、0.6-2.2例の頻度で見られる。
 近年、NTMリンパ節炎とBuruli潰瘍の報告が増加している。疾患が認知されてきたという理由もあるが、先進国でBCG接種を中止した国があることが影響している可能性がある。BCGワクチンはMycobacterium bovisの弱毒生ワクチンであるが、NTMと共通したエピトープを有する。そのため、NTM感染に対して、特異的な交差反応を発揮する可能性がある。
 本研究では、BCGワクチンがNTMによる疾患に対して予防効果を有するかを検討した。
 
方法:PRISMAガイドラインを用いて、系統的検索を行った。免疫正常な患者を対象に、BCGがNTM疾患を予防するかを検討した対照研究を検索した。10個の研究が条件を満たし、約1200万人分の結果が得られた。
 
結果:
・NTMリンパ節炎(先進国)
 9,888,719名のBCG接種した小児と1,960,572名のBCG非接種の小児を比較した。この内445名がNTM疾患を発症した。3つの研究全てで、BCGワクチンはNTMリンパ節炎の予防に効果があった。Risk ratio(RR)は0.04 (95% CI, 0.01-0.21)であった。
・Buruli潰瘍
 6個の研究でBuruli潰瘍の発症率を比較することが出来た。成人と小児のBCG摂取者6,475名、被接種者13,612名を比較した。ウガンダで実施した研究が最も強力なエビデンスを提供した。BCG接種者では、RRは0.50 (95%CI, 0.37-0.69)であった。BCGによる予防効果は、発症率の低いsetting、接種後1年以内で高く、BCG接種者では発症しても病変の大きさが小さいという報告もあった。
・骨髄炎
 Buruli潰瘍による骨髄炎の発症は、BCG接種によりRR 0.36 (95%CI, 0.22-0.58)になった。
 
結論:BCGによってNTM疾患の予防効果がある。BCG定期接種プログラムの廃止を検討する場合には、この効果を考慮する必要があるし、BCGに変わる新しいワクチンで代替することも考慮する必要がある。

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