小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

COVID-19に対して、出生時のBCGは「やっぱり」効果を示せない

 BCGがCOVID-19に有効かもしれないという報道があり、日本で一時的にBCGが品薄になることが有りました。この根拠は、BCGを定期接種化している国では、COVID-19患者数が少ないという報告です。BCGがCOVID-19を予防するのではという仮説が考えられました。(Escobar LE, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020; 117: 17720
 
 すでに、イスラエルからの報告では、BCG定期接種終了した1982年前後で出生した人(それぞれ約30万人)を調べています。対象は、現在の年齢は30代後半から40代前半になりますが、COVID-19の患者数者・重症者数に違いが無いことを示しています。(Hamiel U, et al. JAMA. 2020; 323: 2340
 
 今回は、スウェーデンコホート研究で、1975年に新生児に対する定期接種を終了したので、その前後で出生したそれぞれ約100万人を調べて、COVID-19の患者数・入院者数を検討してます。対象者は、40代中盤になります。
 結論としては、イスラエルからの報告と同じく、
「乳児期のBCG接種は、成人になってからのCOVID-19に対する予防効果は示せない」
ということになりました。
 ただ、直近でBCGを接種した場合、(効果が強く残るので)COVID-19に有効かもしれないという仮説は残りますが、乳児のBCG接種の機会を奪い、成人が接種する合理的な理由は全くありません
 
 
Bacille Calmette-Guérin Vaccination in Infancy Does Not Protect Against Coronavirus Disease 2019 (COVID-19): Evidence From a Natural Experiment in Sweden
Clément de Chaisemartin, et al. Clin Infect Dis. 2020. Aug 23.
 
背景
 BCGワクチンは、呼吸器感染症に対する免疫効果を有している。したがって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する保護効果があるという仮説が立てられている。最近の研究では、小児でBCGワクチンの定期接種を実施している国は、COVID-19パンデミックの影響を受けにくい傾向があることがわかった。しかし、そのような生態学的研究は、多数の交絡因子による影響を受ける。そこで本論文では、1975年にスウェーデンで実施された全国規模の自然実験を報告する。この年、新生児のBCGワクチン接種中止によりBCG接種率が劇的に低下し、バイアスを除いたBCGの効果を推定することができる。
 
方法
 1975年の直前および直後に生まれた出生した人(それぞれ1,026 304人および1,018 544人)が対象である。COVID-19の患者数および入院数が記録された。COVID-19関連の転帰に対するBCGワクチン接種の効果を評価した。この大規模集団において、無作為化比較試験では達成が困難な精度を可能となった。
 
結果
 COVID-19症例およびCOVID-19による入院のオッズ比(95%CI)は1.0005(0.8130-1.1881)および1.2046(0.7532-1.6560)であり、BCG定期接種のかなり僅かな効果も否定された。BCGワクチン接種により症例数が19%、入院数が25%減少するという仮設は、95%の信頼度で否定できた。
 
結論
 最近のBCGワクチン接種歴の効果を評価する必要があるが、出生時にBCGワクチンを接種しても、中年者のCOVID-19に対する保護効果は得られないという強い証拠が得られた。
 

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