小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

BCG骨髄炎のケースシリーズ

 BCG接種後の副反応として骨髄炎・骨炎が知られています。まれな副反応ですが、接種後1年程度経過してから緩徐に発症します。

 

 今回紹介する論文は、台湾からの報告です。台湾でも、日本と同じTokyo 172-1株を使用しています。

要点です

・接種から発症までの期間の中央値は、13.9ヶ月。

・下肢の長管骨に多い。この場合、発症するまでの期間が他の骨の場合より長い。

・12ヶ月位の治療を行っている。

・椎体の変形や脚長差を残すなどの、後遺症もありうる。

 

Clinical Manifestations, Management, and Outcomes of Osteitis/ Osteomyelitis Caused by Mycobacterium bovis Bacillus Calmette-Guérin in Children: Comparison by Site(s) of Affected Bones
J Pediatr. 2019;207:97.
【目的】BCGによる骨炎・骨髄炎の臨床症状、治療、転帰を評価すること。
【方法】
 1998−2014年に台湾のワクチン有害事象補償プログラム(VICP)に登録されたBCG骨炎・骨髄炎の71例をレビューした。患者の特徴、臨床、検査、治療、および転帰のデータを、部位毎に比較した。
【結果】
 合計症例数は71例であった。ワクチン接種日の中央値は、生後13日 (1-229日)。ワクチン接種から発症までの日数の中央値は、13.9ヶ月であった。下肢の長管骨への感染が36.6%の症例に認められた。次いで足の骨(23.9%)、肋骨または胸骨(15.5%)、上肢の長管骨(9.9%)、手の骨(7%)、複数病変(4.2%)、椎骨(2.8%)であった。下肢長管骨に感染した小児は,BCG を接種してから発症するまでの期間が長く(中央値 16.0 ヵ月,P = 0.02)、足の骨に感染した小児は、腫脹(94.1%;P = 0.02)と局所圧痛(76.5%;P = 0.004)を認める頻度が高かった。外科的介入は70名の小児に行われ、部位毎で処置回数には有意差はなかった(中央値,1名あたり1.0処置)。抗菌薬治療を受けた70名の小児で、椎体および複数病変の患者は、治療期間が長く(P < 0.001)、第二選択の抗結核薬を使用する割合が多かった(P = 0.002)。椎体および複数病変の 3 例は,脊柱の変形や脚長差を伴う重篤な後遺症を残した。肋骨・胸骨・末梢の骨に感染した症例の予後は良好であった。機能回復までの平均期間は6.2±3.9ヵ月であった。
【結論】
 BCG骨炎・骨髄炎を発症した小児は、部位ごとに特徴的な症状と転帰を示した。BCGワクチン接種後に発症した骨症状の患者を診察する場合には、BCG骨感染症を鑑別に上げ、治療を計画する際には、罹患部位を考慮すべきである。
 

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部位
症例数 (N=71)
脊椎
2 (2.8%)
肋骨・胸骨
11 (15.5%)
上肢長管骨
7 (9.9%)
5 (23.9%)
下肢長管骨
26 (36.6%)
17 (7.0%)
複数病変
3 (4.2%)
2名は、慢性肉芽腫症と診断
(本文より抜粋)
 
臨床症状
頻度
発熱
21.1%
発赤
33.8%
腫脹
77.5%
熱感
22.5%
圧痛
54.9%
腫瘤
51.4%
64.6%
(本文より抜粋)
66例がデブリードマンを行った。7名が手術2回、3名が手術3回行った。
70名が抗結核薬を投与された。投与期間の中央値は12ヶ月(3−38ヶ月)。
 
ちなみに、WHOのライセンスを取得している施設・菌株は5つあるそうです。
日本BCG研究所(日本)
Tokyo 172-1株BCG
AJ Vaccines(デンマーク
Danish 1331株BCG
Serum Institute of India(インド)
Russian BCG-I株BCG
Green Signal Bio Pharma(インド)
Russian BCG-I株BCG
Bul Bio−National Center of Infectious and Parasitic Diseases (BB-NCIPD) (ブルガリア
ソフィア株

https://jata.or.jp/rit/rj/389-22.pdf

(日本BCG研究所 山本三郎先生の解説を参考)

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov