小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

眼窩蜂窩織炎と眼科周囲蜂窩織炎は似ているけど全然違う

Paediatric pre- and post-septal peri-orbital infections are different diseases
Int J Pediatric Otorhinolaryngol. 2008;72(3):377
 
目的:眼窩周囲の感染症は、眼科周囲蜂窩織炎(preseptal cellulitis)と眼窩蜂窩織炎(postseptal cellulitis)に分類される。発症初期に両者を区別することは、しばしば困難である。初診時の臨床的特徴を同定し、正確な診断と治療につなぐことは重要である。本研究では、後方視的に両者の特徴を比較した。
 
方法:小児の3次医療機関で11年間に経験した症例を後方視的に検討した。両者の症状・身体所見・CT所見・外科的介入について検討した。
 
結果:262名の小児患者が対象である。227例は眼科周囲蜂窩織炎(pre-septal)で35例が眼窩蜂窩織炎(post-septal)であった。Preとpostでは、以下の項目で有意差が見られた。年齢(3.9 vs. 7.5 years, p<.001)、外傷歴(40% vs. 11%, p<.003)、副鼻腔炎の臨床診断 (9% vs. 91%, p<.001)、発熱(47% vs. 94%, p<.001)であった。眼窩診察では、眼窩蜂窩織炎(post)は、複視、眼球運動障害、眼瞼下垂が、優位に多く認められた。手術が必要となったのは、preの5%、postの25%の症例であった。
 
結論:両者を鑑別するときには、外傷歴、副鼻腔炎の合併、眼窩診察所見(複視など)が有効である。
 
コメント:起炎菌に関しては、どちらもStaphylococcus, Streptococcusがメインになりますが、眼科周囲蜂窩織炎では、インフルエンザ桿菌や嫌気性菌が原因となるので注意が必要です。Hibワクチンのおかげで、インフルエンザ桿菌の割合は減っているそうです。

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【両者の違いを詳しく書きました】
 眼科周囲蜂窩織炎と眼窩蜂窩織炎は、解剖学的に異なった部位の感染症である。眼窩隔壁(orbital septum)より前方の組織の感染が眼科周囲蜂窩織炎で、後方の感染が眼窩蜂窩織炎である。どちらの感染症も眼球には感染は及んでいない。
 
 
 
 眼窩は三角錐が水平になった構造であり、頂点は頭蓋骨内にある。眼窩は、副鼻腔に囲まれている。眼窩壁は骨膜を有しており、蝶形骨洞とは紙のように薄い層(lamina papyracea)で接している。Lamina papyraceaには、血管や神経が通過する穴がたくさんある。眼窩へ感染が進行する場合は、蝶形骨洞を経由することが最も多い。眼窩隔壁(orbital septum)は、膜状のシートで、眼窩の骨膜から瞼板(tarsal plate)へ延びており、眼窩を構成する境界になる。

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