小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児多系統炎症性疾患(MIS−C)には、免疫グロブリン+ステロイドが有効

 連日、MIS-Cの論文で恐縮です。
 MIS-Cは、COVID-19罹患後に発症する川崎病と似た症状を呈する疾患ですが、治療も川崎病に準じて、行われます(ガンマグロブリン大量投与IVIG単独、またはステロイドとの併用)。まだ、確立した治療はないのですが、ステロイドを追加したほうが良いかは、臨床医として興味があります。
 今回、紹介するのは、フランスのMIS-C登録症例のデータから傾向スコアマッチングを行った研究です。
 
 要点
・IVIG+ステロイドは、解熱が早く、再発熱が少ない (9% vs. 38%)
・IVIG+ステロイドは、追加治療や循環サポートが必要となる割合が少ない
・IVIG+ステロイドは、左心機能不全が少なく、PICU入院日数が短い
 
 ステロイドの副作用は懸念されるところですが、IVIG単独よりもステロイドを併用したほうが、効果は確実と言えます。パルス療法まで行うかどうか、明確な基準は無さそうです。
 
Association of Intravenous Immunoglobulins Plus Methylprednisolone vs Immunoglobulins Alone With Course of Fever in Multisystem Inflammatory Syndrome in Children
JAMA . 2021 Mar 2;325(9):855-864. doi: 10.1001/jama.2021.0694.
 
はじめに
 小児多系統炎症性症候群(MIS-C)は、小児の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に伴う最も重篤な合併症であり、致死的になる可能性があるが、最適な治療戦略はまだ不明である。
 
方法
 MIS-Cの初期治療として、免疫グロブリン静注療法(IVIG)+メチルプレドニゾロンとIVIG単独療法を比較することを目的とした。フランス国内のサーベイランスシステムから抽出された後方視的コホート研究で、傾向スコア分析による解析を行った。MIS-Cが疑われた症例はすべてフランス国立公衆衛生局に報告された。世界保健機関の定義を満たすMIS-C確定症例を対象とした。2020年4月1日に開始され,追跡調査は2021年1月6日に終了した。IVIGとメチルプレドニゾロンの併用した患者とIVIG単独で治療した患者を比較した。主要アウトカムは、初期治療開始から2日後の発熱が持続しているか、または7日以内の再発熱を、治療失敗と定義した。副次的評価項目は、second-lineの治療、循環支持療法、初期治療後の急性左心機能障害、小児集中治療室での入院期間などとした。
 
結果
 MIS-Cが疑われた小児181名のうち、111名が世界保健機関の定義を満たした(女児58名[52%], 年齢中央値8.6歳[IQR 4.7-12.1歳])。5人はどちらの治療も受けなかった。IVIG +メチルプレドニゾロン群では 34 例中 3 例(9%)、IVIG 単独群では 72 例中 37 例(51%)の症例で治療反応が見られなかった。IVIG +メチルプレドニゾロンによる治療は、治療失敗のリスクが低いことと関連した(絶対リスク差:-0.28 [95% CI, -0.48 to -0.08]; オッズ比 [OR], 0.25 [95% CI, 0.09 to 0.70]; P = 0.008)。また、IVIG+メチルプレドニゾロンの併用療法は、second-lineの治療を行うリスクが低く(絶対リスク差:-0.22[95%CI、-0.40~-0.04], OR, 0.19[95%CI、0.06~0.61], P = 0.004)、血行力学的サポートを行う割合が少なく(絶対リスク差:-0.17[95%CI、-0.34~-0.004], OR, 0. 21[95%CI,0.06~0.76])、左心機能障害は少なく(絶対リスク差,-0.18[95%CI,-0.35~-0.01];OR,0.20[95%CI,0.06~0.66]),および小児集中治療室での滞在期間は短かった(中央値,4日 vs. 6日;日数の差,-2.4[95%CI,-4.0~-0.7])。
 
結論
 MIS-Cにおいて、IVIG+メチルプレドニゾロンによる治療は、IVIG単独と比較して、良好な経過と関連していた。
 

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ステロイドの投与方法は、
30例が、メチルプレドニゾロン 0.8-1.0 mg/kgを12時間毎 5日間(減量に関しては記載なし)
4例が、メチルプレドニゾロン 15-30mg/kg/日 3日間(いわゆるステロイドパルス)
 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ステロイドの投与方法は、いくつかのオプションが考えられます。

日本小児科学会
ステロイドは、IVIGの効果が不十分な場合の追加治療の位置づけ
・ただし、重症例には、初期からステロイドを投与
・2−3週間かけて漸減する
ステロイドパルス両方は、ショックなど重症例に限る

 

American College of Rheumatology
・低用量〜中等量 (1-2mg/kg/day)のステロイドで十分
・重症例には、高用量が検討される
・用量に関わらず、2−3週間かけて漸減する

 

最大公約数としては、だいたいこのようになるかと思います。

ステロイド(メチルプレドニゾロン1-2mg/kg/日)投与は、追加する方がメリットが大きそう

ステロイドパルス療法は、重症例に限定するべき

・決まった減量方法は無いが、2−3週間で終了する

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)の臨床的特徴

 新型コロナウイルス感染症に罹患した後、2−6週間で多臓器系統にわたり強い炎症を起こす病態があります。小児多系統炎症性症候群(MIS-C)と呼びます。川崎病と症状が似ており、川崎病に準じた治療が行われます。
 日本では比較的報告が少ないのですが、それでも症例報告は出ています。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 日本小児科学会からも、コンセンサスステートメントが出ています。

 治療については、大量ガンマグロブリンステロイドなど、いわゆる川崎病と同じ治療を行うことになります。

www.jpeds.or.jp

 

 米国では、MIS-Cの症例も多く、今回紹介するのは、MIS-Cと重症のCOVID-19の臨床像を比較した研究です。それぞれの群が500名以上で、日本ではとてもできない規模の研究です。

要点をまとめると、MIS-Cは重症COVID-19と比べて

・心血管症状が多い
・粘膜皮膚症状が多い
・好中球比率が高い
・血小板が低い
CRPが高い
という特徴があります。
 
 オミクロン株の流行で、小児の症例が増えてくる中で、重症COVID-19とMIS-Cの区別は重要です。治療が全く異なるからです。
 このような特徴をもつ症例を適切に拾い上げて診療するのが重要かと思います。
 
Characteristics and Outcomes of US Children and Adolescents With Multisystem Inflammatory Syndrome in Children (MIS-C) Compared With Severe Acute COVID-19
JAMA. 2021;325(11):1074-1087.
 
 小児の多系統炎症性症候群(MIS-C)の基準を改善することは、この疾患の転帰を改善するための取り組みに役立つ可能性がある。
 
目的: 小児のMIS-Cと重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床的特徴と転帰を比較すること。
 
方法:米国の31州66医療機関で、2020年3月15日~10月31日に入院した21歳以下の患者1116人のケースシリーズである。最終フォローアップ日は2021年1月5日である。MIS-Cの患者は、「発熱、全身の炎症所見、複数臓器の炎症所見、SARS-CoV-2のRT-PCRまたは抗体検査陽性、または曝露歴があり、代替診断がない」症例とした。COVID-19の患者は、RT-PCRテストの結果が陽性で、重度の臓器障害がある患者とした。症状、臓器系統ごとの合併症、バイオマーカー、治療、臨床転帰を検討した。多変量回帰法を用いて,MIS-CとCOVID-19に関連する因子の調整リスク比(aRR)を算出した。
 
結果: 1116名(年齢中央値9.7歳、女性45%)のうち、539名(48%)がMIS-Cと診断され、577名(52%)がCOVID-19と診断された。COVID-19患者と比較して、MIS-C患者の年齢層は6~12歳が多かった(40.8% vs. 19.4%)、非ヒスパニック系黒人が多かった(32.3% vs 21.5%)。 COVID-19患者と比較して、MIS-C患者は、心臓・呼吸器合併症が多く(56.0% vs. 8.8%、aRR 2.99[95%CI、2.55-3.50])、呼吸器病変を伴わない心合併症が多かった(10. 6% vs 2.9%; aRR, 2.49 [95% CI, 2.05-3.02] )、心臓・呼吸器合併症を伴わない粘膜皮膚所見が多かった(7.1% vs 2.3%; aRR, 2.29 [95% CI, 1.84-2.85] )。MIS-C患者は、好中球/リンパ球比が高く(中央値6.4 vs. 2.7, P < 0.001) 、CRP値が高く(中央値152mg/L vs. 33mg/L, P < 0.001)、血小板数が少なかった(15.0万/μL未満 [41% vs. 17%, P < 0.001])。MIS-C患者398名(73.8%)とCOVID-19患者253名(43.8%)が集中治療室に入院し、入院中にMIS-C患者10名(1.9%)とCOVID-19患者8名(1.4%)が死亡した。左心室収縮機能が低下したMIS-C患者(172/503、34.2%)および冠動脈瘤(57/424、13.4%)が見られたが、それぞれ91.0%および79.1%が30日以内に正常化したという。
 
結論:MIS-C患者とCOVID-19患者を対象としたこのケースシリーズでは、臨床症状と関連する臓器パターンが明らかになった。これらのパターンは、MIS-CとCOVID-19の鑑別に役立つと思われる。
 
MIC-Sの治療
 
症例数(%)
415 (77.0)
374 (69.4)
抗凝固療法
337 (62.5)
抗血小板療法
308 (57.1)
レムデシビル
76 (14.1)
トシリズマブ
32 (5.9)
ヒドロキシクロロキン
14 (2.6)
回復期血漿療法
10 (1.9)
MIS-Cの症状
 
症例数(%)
呼吸器
432 (80.1)
胸部浸潤影
197 (36.5)
下気道感染
94 (17.4)
301 (55.8)
胸水
170 (31.5)
小児ARDS
57 (10.6)
心血管
359 (66.7)
心嚢水
125 (24.9)
左室駆出率
 
<35%
38 (7.6)
35−45%
39 (7.8)
45−55%
95 (18.9)
57 (13.4)
46 (8.5)
血液学的異常
256 (47.5)
66 (12.2)
消化器症状
50 (9.3)
 

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神経疾患と緑膿菌〜叩くべきか叩かざるべきか〜

 以前にも取り上げましたが、脳性麻痺など重度の神経障害があるお子さんの緑膿菌の肺炎は、重症化する事があり、恐ろしい疾患です。一方、このようなお子さんは、気道にもともと緑膿菌を保菌していることが多く、気道感染=緑膿菌が原因とは限りません。

pediatric-infection.info

 コンサルトを受けると、いつも緑膿菌をカバーするか、カバーしないか、悩むわけですが、明確なガイドラインはありません。

 今回、ご紹介するのは、英国の小児病院で気道検体から緑膿菌が検出された神経疾患の患者さんの報告です。

 後方視的検討なので、あまり結論らしいことは言えませんが、筆者らの考えは

緑膿菌を保菌する患者が、気道感染を起こしても、抗菌薬の有無では臨床経過は大きく変わらない。(悪化するときは悪化するし、自然に治るときは自然に治る)

・ただし、臨床経過が悪化する時、緑膿菌カバーを開始すると全例が改善した。

ここから言えるのは、緑膿菌を保菌しているからと言って、全例に緑膿菌カバーした抗菌薬は必要ではないが、増悪する時には、緑膿菌をカバーする」ということでしょうか。

初期治療の時点で緑膿菌カバーするかは、患者さんの重症度とGram染色の所見次第かと、個人的には考えています。

 

Pseudomonas aeruginosa infection in respiratory samples in children with neurodisability-to treat or not to treat?
Eur J Pediatr . 2021 Sep;180(9):2897-2905.
 
はじめに
 複雑な神経疾患を持つ小児は、呼吸器疾患や緑膿菌などのグラム陰性菌感染症のが高い。現在、このような脆弱な子どもたちの治療選択に役立つガイドラインはない。
 
目的
 ガイドラインを今後作成するために、複雑な神経疾患を有する患者における緑膿菌PA)の保菌率と、当センターにおける現在の治療方法を調査することである。
 
方法
3次医療機関である小児病院(英国のSheffield Children's NHS Foundation Trust)で、診療録の後方視的レビューを実施した。神経筋疾患(NMD)または重度の脳性麻痺(CP)と診断され、調査期間中に呼吸器検体の培養検査を行った患者162名(平均年齢11.7歳)を対象とした。呼吸器検体中のPAと、診断、長期人工呼吸管理、胃瘻または気管切開の有無、抗菌薬の選択、臨床的増悪、有害事象との関連を分析した。25名(15%)の患者の呼吸器検体から1回以上のPAが分離された。このうち13人は気管切開をしており、呼吸器検体中のPAと気管切開有無には有意な関連があった(p<0.05)。52%の検体で、複数の病原体が同時に検出された。抗菌薬の選択と臨床転帰には有意な関連はなかったが、感染エピソードの経過中に抗菌薬をPAに活性のある抗菌薬に変更した場合、すべての症例において臨床改善が得られた。再入院した8人の患者を含む26回のエピソードにおいて、薬剤耐性のPA菌が検出された。
 
結論
 本研究で、15%の患者から緑膿菌を検出したが、大部分は高度な治療を要しなかった。臨床的に増悪したり、薬剤耐性PAが検出された患者では、早期に緑膿菌に対する標的治療により、悪化を防げた可能性がある。 より大規模な前向き研究により、ガイドライン作成のためのより明確な基準が確立されるかもしれない。病原性の高いPAを特定するための迅速検査などの技術は,患者の転帰を改善し、将来的に耐性菌の発生を防ぐ可能性がある。

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 治療開始時点での抗菌薬の有無と、その後の経過

→抗菌薬の有無により、経過は変わらないとしています。ウイルス感染が疑われれば抗菌薬は使われにくくなりますし、細菌感染で特に重症な場合、緑膿菌もカバーされるので、なんとも言えません。

臨床経過
抗菌薬なし
緑膿菌カバーなし抗菌薬
緑膿菌カバーあり抗菌薬
悪化なし(%)
2 (40%)
7 (64%)
1 (25%)
悪化した(%)
3 (60%)
4 (36%)
3 (75%)
合計
5
11
4

本文中の表を転記

学校再開のみでコロナの流行は拡大しない

 オミクロンの流行が拡大に伴い、学校・幼稚園再開による小児の感染例が増加しています。
 学校再開が、Covid-19の流行拡大の原因になるのではという懸念があります。しかし、イスラエルで学校再開がCovid-19拡大に与えた影響をまとめたものです。2020年3-7月ですので、かなり流行初期のデータなので、オミクロンに適応はできないかもしれません。
 学校再開よりも、成人の規制緩和が社会にCovid-19拡大に寄与する度合いは大きそうです。
 
Reopening Schools and the Dynamics of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Infections in Israel: A Nationwide Study 
Clin Infect Dis . 2021 Dec 16;73(12):2265-2275.
 
背景
学校再開のメリットと、COVID-19の罹患・死亡のリスクおよびCOVID-19の感染拡大を助長する影響と比較検討する必要がある。我々は、2020年3月から7月にイスラエルにおいて、学校再開と社会的距離制限の緩和がSARS-CoV-2感染の動向に与える影響を調査した。
 
方法
 全国の年齢別発症率、有病率、PCR検査数、PCR陽性率、COVID-19による入院・関連死亡率を調査した。これらの変数が、学校再開後、学校終了後、大規模集会の許可などの規制緩和後の時間的な違いを調べた。
 
結果
SARS-CoV-2感染症の発生率は,学校再開後にすべての年齢層で徐々に増加した。小児よりも成人での増加率が有意に高かった。学校再開後21~27日後の陽性率は、学校再開前の陽性率と比較して、40~59歳(RR, 4.72; 95% CI, 3.26-6.83)と20~39歳(RR, 3.37 [2.51-4.53] )の年齢層で高かった。しかし、0~9歳(RR, 1.46 [.85-2.51] )および10~19歳(RR, .93 [.65-1.34] )の小児では増加が見られなかった。学校再開後もCOVID-19関連の入院や死亡の増加は認められなかった。一方、大規模集会の規制緩和後には、すべての年齢層で増加し、検査陽性率が上昇し、入院や死亡も増加した。
 
結論
今回の解析では、イスラエルにおけるCOVID-19の再流行に学校再開が大きな役割を果たしているとは言えなかった。大規模な集会に対する規制を緩和したことが、今回の流行再燃に大きな影響を与えたと考えられる。

 

 

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A: 学校閉鎖、B: 一部学校再開、C: 完全学校再開
1:一部社会活動制限の緩和  2:さらなる社会活動制限の緩和
BとCで、学校が再開されていますが、そのタイミングでは増加せずに、1,2の社会活動の拡大とともに、患者が増加しています。
(日本では、緊急事態宣言1回目は2020年4月7日〜5月25日。学校一斉休校は2020年3月2日〜5月末まで。)
 

小児でもキノロンの末梢神経障害に注意

 キノロン系抗菌薬は、小児には基本的には使用しない薬剤です。しかし、どうしてもキノロンを使わざるを得ない状況もまれにはあります。また、国内ではトスフロキサシンという経口キノロンマイコプラズマ肺炎などによく使われている現状があります。
 しかし、小児科医は往々にして、キノロンの副作用については、あまり認識していないように思います。
 今回紹介する論文は、シプロフロキサシンによる末梢神経障害の報告と、これまでの報告のまとめです。小児の症例数は少ないですが、もともと使用している人数も少ないので、頻度はよく分かりません。
 
Ciprofloxacin-associated Peripheral Neuropathy in a Child: A Case Report and Review of the Literature
Pediatr Infect Dis J . 2022 Feb 1;41(2):121-122.
 
キノロン系抗菌薬の副作用として、末梢神経障害は、成人領域でよく知られている。2013年にFDAは、この神経障害について警告を出した。しかし、小児においては、報告も限られており、頻度や症状についてははっきりしたものは分かっていない。本報告では、著者らの経験した症例を提示し、これまでの報告から小児例をまとめた。
 
症例
13歳の生来健康な男児
 前頭洞炎と、前頭骨骨髄炎、硬膜外膿瘍と診断された。セフォタキシムとリンコマイシンの点滴を開始した。培養から、Streptococcus intermedius、MSSA、Eikenella corrodensが検出され、セフォタキシムは継続したが、リンコマイシンをフルクロキサシリンに変更した。16日目に、薬疹を認め、抗菌薬は、リンコマイシンとシプロフロキサシン(500mg、12時間毎)に変更した。
 シプロフロキサシン開始から4日目に末梢神経障害が出現した。両上下肢の感覚異常を訴え、両手は紅斑し、熱感と腫脹を認めた。患者は、手足の感覚を「何千匹ものアリに噛まれているようだ」と表現し、両手両足を氷水に浸すと、症状は緩和された。シプロフロキサシンを中止したところ、24時間以内に症状は完全に消失した。
 
年齢
抗菌薬
発症時期
副反応
9歳
シプロフロキサシン
不明
末梢神経障害
12歳
レボフロキサシン
不明
10歳
ノルフロキサシン
不明
末梢神経障害
15歳
オフロキサシン
不明
末梢神経障害
11歳
レボフロキサシン
5日目
末梢神経障害
16歳
シプロフロキサシン
1-2週目
下肢の感覚異常と疼痛
<18歳
モキシフロキサシン
不明
末梢神経障害
13歳
シプロフロキサシン
4日目
末梢神経障害
 
成人の報告では、頭痛、眠気、興奮、精神病、痙攣、末梢の感覚障害や運動障害などのキノロンによる神経毒性関連の症状を発症する可能性があります。これらの症状は、投与後1週間以内に発症することが最も多く、急激に発症することもあれば、長期間持続することもある。
 
シプロフロキサシンを含むフルオロキノロン系薬剤は、動物実験で筋骨格への影響が懸念され、小児へは慎重に使用されてきました。これまでのところ、長期的な筋骨格への影響を示す強いエビデンスはない。報告は少ないものの、フルオロキノロンを処方する際は、末梢神経毒性のリスクを認識しておく必要がある。特に、乳幼児の場合、症状を言葉で伝えたり、症状を正確に解釈したりすることが難しいため、気づかないことがありえる。
 
2016年のFDAレビューを受け、米国小児科学会は、フルオロキノロンは多剤耐性感染症にのみ使用するか、フルオロキノロンの経口投与が静注抗菌薬の代わりになる場合にのみ使用すべきであると勧告している。