小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新生児の化膿性耳下腺炎

 耳下腺炎の代表は、ムンプス(いわゆるおたふく風邪)です。最近は、ワクチンの普及で見る機会がすごく減りました。ムンプス以外には、化膿性耳下腺炎がありますが、小児では稀で、新生児の化膿性耳下腺炎もまれです。
 この論文は、GBSによる新生児の耳下腺炎の症例報告ですが、過去の報告のレビューもあり、非常に興味深いです。
要点
・新生児の化膿性耳下腺炎は、まれな疾患。
・殆どが片側性で、耳下腺開口部からの排膿を伴う
黄色ブドウ球菌が起炎菌として最多。

・GBSもまれな起炎菌としてありえる。
・GBSによる耳下腺炎は、耳下腺開口部からの排膿がなく、血行性に発症することが示唆される。
 
Neonatal Parotitis: A Case Report and Review of the Literature.
Pediatr Infect Dis J. 2023 Sep 1;42(9):e323-e327. 
 
背景
 新生児耳下腺炎はまれな疾患である。1970年ー2011年の間に報告された症例は44例のみである。
 
方法
 本報告では、B群溶血性レンサ球菌(GBS)による新生児耳下腺炎の1例を報告する。さらに、最近の文献のレビューを行った。2011‐20年の間、18症例が報告されていた。2011年以前に発表された44症例とともに解析した。
 
結果
 全例が耳下腺の腫脹を呈した。局所初見と全身症状の程度はさまざまであった。耳下腺開口部からの排膿が、85%に認められた。片側性が大部分を占めた(84%)。70%は男児であった。早産児が29%を占めた。最も多く分離された病原体は黄色ブドウ球菌(68%)であった。GBSが原因菌であったのは、5例であった。ほとんどの症例で静注抗菌薬で治療ができた。27%の症例で外科的ドレナージが必要であった。予後は良好であった。
 
結論
 GBS症例と非GBS症例を比較すると、GBS症例は耳下腺開口部からの排膿を認めず、より重篤な全身症状を呈する傾向があった。GBS症例では全例が血培陽性であったのに対し、非GBS症例では血培陽性は27%であった。このことから、GBS症例では耳下腺感染の主な経路が血行性であるのに対し、非GBS症例では口腔から耳下腺への逆行性であることが示唆される。