小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

マクロアミラーゼって何?

 先日、詳細は省きますが、アミラーゼ高値と免疫グロブリン高値で紹介された患者さんがいました。いろいろと原因を検索したのですが、最終的には、「マクロアミラーゼ」と考えられました。
 マクロアミラーゼという病態を知らなかったので、まとめました。
 
【はじめに】
 アミラーゼは、消化酵素の一つで、膵臓と唾液腺から分泌されます。アミラーゼが上昇している際には、以下のような鑑別診断を考えます。(UpToDateより抜粋)
 
膵疾患
唾液腺疾患
膵炎、膵仮性嚢胞
外傷、手術、ERCP後
膵管閉塞、膵癌
嚢胞線維症
感染症、外傷
放射線、導管狭窄
消化管疾患
婦人科疾患
消化管穿孔、イレウス
腸間膜梗塞、虫垂炎
肝疾患、胆嚢炎、
腸炎、セリアック病
子宮外妊娠、卵巣嚢腫
骨盤内炎症性疾患
悪性腫瘍
その他
卵巣・前立腺・肺・食道・乳がんなど
多発性骨髄腫
褐色細胞腫
マクロアミラーゼ、熱傷
妊娠、AIDS、頭部外傷
動脈瘤、薬剤性など
 
 小児科的に最も多いのが、耳下腺炎です。大抵は、ムンプス(おたふく風邪)ですが、最近はワクチン接種が進んで、診察する機会がめっきり減りました。インフルエンザなども、耳下腺炎を合併することもあるのですが、インフルエンザもコロナの流行とともに減少しているので、耳下腺炎は本当に少ないです。
 
【マクロアミラーゼとは?】
 血液中のアミラーゼが、免疫グロブリンと結合し、大きな複合体を形成する病態を指します。腎臓からの排泄が低下し、アミラーゼが上昇します。1967年、Berkらが、マクロアミラーゼ血症と命名しました。何らかの機序で、アミラーゼに対する自己抗体が産生され、マクロアミラーゼを形成すると考えられています。
*アミラーゼに限らず、種々の酵素(CPK、LDH、ALPなど)と免疫グロブリンが複合体を形成することがあり、複合体は、マクロ酵素と総称されます。
 
【マクロアミラーゼの頻度】
 一般人口の0.1−0.2%程度と推定される。年齢とともに増加するという報告もあり、20歳以下では少ない。
 
【マクロアミラーゼの検査】
マクロアミラーゼの特徴は、以下のようになる
  1. 血中アミラーゼの持続高値
  2. 尿中アミラーゼの低値(腎臓からの排泄低下)
  3. 血中アミラーゼの電気泳動の異常
  4. 血中アミラーゼ活性の測定法による差
  5. 血中の高分子アミラーゼの存在
  6. 高アミラーゼ血症を来す膵臓・腎臓・唾液腺疾患がない
 
 電気泳動用によるアミラーゼアイソザイム分析を行うと、唾液型(S型)ー膵型(P型)領域に幅広い活性体を有し、両者の分離が不明瞭になる。複合体は、IgGかIgAが多い。
 
診断のポイント
血清アミラーゼ
高値
高値
尿中アミラーゼ
低値
アミラーゼアイソザイム
P型とS型の分離不明瞭
 
【マネジメント】
 マクロアミラーゼを診断したら、特に、それ以上の精査や治療は必要ない。SLE・糖尿病・肝疾患・多発性骨髄腫や・潰瘍性大腸炎クローン病などの基礎疾患が無いことを確認する。